-隔離 1-
『エチゴ』に入ったクラウン達はマユリの住む自宅へと馬を進める。クラウンにとっては初めて見る景色に興奮を隠しきれない。色々と目移りする様をカンタが「おのぼりさんかよ」と皮肉るがその言葉の意味を知らないクラウンは気にも留めなかった。
しばらく街の中を歩くと目の前に立派な城が見えてくる。西洋の城ではなく、和風の城だ。その姿にクラウンは圧倒される。
「うわぁ……」
「どうだクラウン?ここがホウジョウ家の方々が住まう城『アヅチ』だ!」
カンタの自慢げな声が聞こえるが、クラウンには届かない。その代わり怒涛の質問をカンタにぶつける。最初のうちはしっかりと答えていたが、途中から面倒くさくなり雑になっていく。その様子を気にも止めないクラウンは再度カンタへ質問する。
「あー!もう後で答えるから!はいっ、質問は終わり!」
カンタが白旗を上げ質問には答えないと態度で語る。クラウンも冷静に戻り、先程までの自分の様子を思い返し恥じる。顔を赤くしたクラウンは列の流れに沿うように『アヅチ」へと入城していくのであった。
「父上、無事に我が家へと帰りつきました。救出、及び護衛の兵を出していただき感謝致します」
大広間にてヘイゾウ達とマユリが下段の間にて頭を深々と下げている。
「うむ。無事で何よりである。…さて、詳しい話を聞くとしよう。そなたら、面をあげよ」
上段の間に座するのは好々爺然とした男性である。上段の間に座する男性こそが『ホウジョウ家』現当主、『ホウジョウ=ヨシツネ』である。
「まずはマユリ。お前が何に襲われたのかを知りたい」
「はっ。私の乗った馬車は飛竜の大群に襲われました」
「ふむ……。大群となれば討伐隊を送らなければなるまい。城下の組合に募集をかけておこう。……それで?」
マユリの話を聞き、目を鋭く細め解決策を思案する。そのまま、マユリへ話の続きを促す。
「護衛をやられ命からがらに森の中へと逃げたのですが、運悪く大鬼と遭遇し戦闘となりました」
マユリの言葉にヘイゾウがピクリと片眉を挙げるが、言葉は発しない。他の兵士達も手に力が入るがそのままだ。
「大鬼に足を潰され死を覚悟したのですが、そのときクラウンたちに救われたのでございます。彼等には…」
淡々と話をするマユリに対し、身を乗り出し興味津々とした態度で話を聞くヨシツネ。マユリが続きを話そうとするが、ヨシツネの言葉によって遮られる。
「ほほう?救われたということは、大鬼を倒したということ…。それは全員で戦ったのか?」
「…申し訳ありません。そのとき私は気を失っていたため後から話を聞いただけでございます。ただ、そのときには誰が倒したとも聞いておりませぬので、全員で倒したのではないかと」
マユリはアックスより聞いていた話を思い出しながら、ヨシツネへと報告する。事実、気を失っていた為嘘を言われていてもわからないのである。
「ふむふむ。…ま、後で話を聞けば良いこと。それで?」
マユリは覚えている限りの話をヨシツネへと聞かせる。倒した後の出来事、救援を待つ時の戦い、そして野営をした事。ヨシツネはそれを目を瞑りながら聞いていた。
「………それでヘイゾウたちが来てくれ、無事に我が家へと辿り着けました」
マユリの話が終わり静寂が訪れる。目を瞑りながらヨシツネは思案を巡らせる。やがて、結論が出たのか膝を叩く。
「うむ、話はわかった。まずは、近衛の者たちよ、大儀であった。……これからのことだが、マユリ、お前は自室へと戻り疲れを癒せ。ヘイゾウとカンベエはここに残れ。それ以外は持ち場へと戻ってよい」
ヨシツネの言葉に従い各々動き始める。マユリは少々疑問に思いながらも自室へと戻る。大広間にはヨシツネとヘイゾウ、カンベエの3人だけとなった。
「…さて、これからのことについて相談がある。まずはヒューイ殿から聞いたことなのだが……」




