-合流 2-
「ねぇ、マユリ。気になってたこと聞いてもいーい?」
馬車の中でくつろいでいたミリィ達。『エチゴ』への道中、話題がマユリへと移る。
「なんでございんすか?」
湯呑みでお茶を上品に飲みながらマユリが返答する。馬車の中にはお菓子や飲み物がしっかりと準備されている。
「それだよ!なんであたしたちと話すときとヘイゾウさん、だっけ?その人たちと話すときの口調が違うの?」
ミリィの素朴な質問にマユリ、ヘレーナが顔で答える。マユリの口調が変わるという事に関してはヘレーナもわかるからである。
「そ、それは…。一応わっちは『ホウジョウ家』の一員でありんすから、言葉遣いは丁寧にしなければいけんせん」
「へー?そうなんだ!あたし、口調とか変わらないからさー!」
「…ミリィも公爵家の一員では?」
「…あー。ごめんねマユリ。この子まだ社交の場には出向いてないのよ…」
「その言い方だと、ヘレナは経験済みってことでありんすか?」
「私は次女ですけどね…。そういう場には強制で出てるわよ?父の命令でね」
「ふーん。公爵家といっても育て方はバラバラなんでありんすね」
「ちょっと!なんかあたしをバカにしてない!?」
疎外感を味わっていたミリィが無理矢理会話へ入ってくる。話題を作ったのはミリィであるが、主に受け答えしていたのはヘレーナだったからだ。
「ミリィもいずれ顔合わせとして、社交の場へ出るときが来るのよ?そのとき、絶対に口調は変わるからこの気持ちがわかると思うわ」
「社交の場ねぇ……。あたしはまだいーや!だって、婚約者を見つけたりしないといけないんでしょ?」
ミリィの想像する社交場とは、煌びやかな一室で貴族達が食事をしながら音楽を聴き、息子や娘などを自分より上の爵位持ちと結婚させようとするイメージが強い。
「…あながち間違ってはいないでありんすが」
「まぁ、それもあるけど…。顔を売るっていう意味合いも含んでるわよ?特に公爵家なら貴族たちに覚えてもらわないといけないんだから」
公爵家から見る社交の場とは、政治的な見方もあるが敵が味方かを仕分けするのに適している。もちろん、副産物としてお見合いやらなんやらがついてくるが、基本的には売名行為に近い。
「上流階級の宿命でありんすからね。どの国でもそこは一緒なんでありんすねぇー」
めんどくさいよね、と言わんばかりの溜息を吐きマユリはお茶をすする。ヘレーナも同意とばかりに頷く。
「ところでさ、マユリは婚約者とかいるの?」
ミリィの一言にマユリはお茶を吹き出し咳き込む。ヘレーナが慌ててハンカチを取り出し吹きこぼれたお茶を拭く。
「ゴホッゴホッ…。い、いきなりなんでありんすか!?」
口を自分のハンカチで拭きながらマユリが聞き返す。目には軽く涙が浮かんでいる。
「いやー、だってさ気になるんだもん。あたしにはいない…けど、マユリはどうなのかなーって」
「わっちもまだおりんせん!好きなひともいないのに婚約者なんて早過ぎるでありんす!」
「わわ、ごめんごめん。そんな大きな声出さないでよ…。マユリはあたしたちよりも年上だから気になっただけだよ?」
「もう!ミリィったら。そういうことはあんまり聞いちゃいけないのよ?マユリ、ごめんね?」
ミリィとヘレーナがマユリへと頭を下げる。それを慌てて頭を上げろとマユリが言い、この話は終わりとなる。だが、年頃の女性たちはこの後も頻繁にこの様な会話、女子会を開くこととなるのであった。




