目覚め -英雄の片鱗 2-
一通り笑い終わり、マリーはクラウンと目を合わせる。
「それで、私に伝えたい事とはなんでしょうか?」
「うん、遅くなっちゃったけど…僕にも魔力反応が出たよ」
マリーの期待通りの言葉に思わず、クラウンを抱き締めてしまう。2年も顔を見せなかったのだ。最初の頃はワクワクしながら待っていた。それが1年経っても何も情報が来ない。1年と半年経ったあたりから少しずつ不安になり始めていた。
まだ魔力反応が出る猶予はあるとしても、もしかすると、自分が味わった不安をクラウンも味わっているのかも知れない。そう思う度に会いに向かおうと考えるが、なんと言えばいいかわからないし、絶対大丈夫なんて言葉は使えない。もし、使えなかったら…心に傷を付けてしまうかもしれないから。そう葛藤し時が経つのを今か今かと待っていた。
そして今、無事に魔法が使えたと教えられマリーは心の底から神々に感謝の祈りを捧げた。強く抱き締めるマリーの腕の中で、もぞもぞとクラウンが動き出す。
「くるしいよまりー」
小動物のように腕の中から出ようとするクラウンを愛おしく思いながら、腕の力を抜く。
「ごめんなさいクラウン様。つい嬉しくって抱き締めてしまいましたわ」
「別にいいよ。嫌じゃなかったし…」
少しだけ照れたようにクラウンは答えると、服を整えた。その言葉に対し、マリーは再び抱き締めそうになるが自重する。
「ゴホンっ……。それで、クラウン様。魔法属性は何だったのでしょうか?やっぱり火属性…いや、水属性の場合もありますね」
「うーん……。魔法属性は分からないんだ。でも、魔力反応は出たから魔法は使えると思うよ」
マリーはクラウンが言った言葉を反芻した。けれども、何を言っているのかが理解出来ない。普通の考えではその通りだ。しかし、マリーは神殿の長であり、よく分からない事は、神々しか知らない事だと都合のいい解釈をする。難しい問題は専門外だと言わんばかりに。
「そうなのですか…。きっと時間が経てば分かるんでしょうね。魔力があると知れた事だけでも幸せなのかも知れません」
「うん、魔力が無いってわかっちゃったら凄くショックだったけど、あるってわかっただけで安心だよ」
それに、みんなにも同じこと言われたよ…とクラウンは続けた。
この世界では基本的に魔法は全員が使える。稀に魔力が全く無い子どもが見つかる場合があるが、原因ははっきりと分かってはいない。ただ、無い子どもは才能という部分で他よりも抜きんでた力を持つ。それは商才であったり、武力であったり。この王国では才能を重視しており、魔力が無くても一芸あれば爵位を貰える事もあり、歴代の騎士団長にも魔力無しの英雄もいた。




