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第1話 『負け犬キール』

「ああもう全てのことが嫌になる! 」


 俺は離れていく仲間たち、いや、元仲間の五人の背にそう叫んでいた。

 ここに残る者は誰もいない。街中にも関わらず恥も外聞も何もなくただただ叫び続ける。


「今まで一緒にやってきたじゃないか。それがなんだ! 初めての敗北とはいえ一度負けたくらいで今までのスタンスをあっさり変えやがって! 相手はあの魔王軍幹部だぞ! もう一度全員でやり直せばいいじゃないか! 」


 息継ぎのためにいったん言葉を切る。怒りは収まらない。叫ばなければやってられない。


「俺くらいの魔術士はなかなかいないんだぞ! 前々から思ってたがお前らは俺のありがたみが全然分かってなかったよ! おいアルバート! 直接的な戦闘力のない奴はいらないだと? そんなの俺に求めんじゃねえよ! そもそも弱い奴が強くなろうしたのが俺みたいな奴らじゃねえか。生まれた時から才能に溢れていたお前には分からねえかよ!」


 アルバートは振り返らない。それどころか俺の言葉を誰も気にとめない。


「おいマリー次はお前だからな! 魔術士っつったって回復しかろくに出来ねえんだからダイスが使えるようになるか、もっと接近戦も出来るような奴が現れたらその時はお前がこうなるんだからよ!そんな奴らについて行っても未来はねえんだぞ! 」


 一瞬遠くで小柄な少女が肩をビクッとさせたがそれでも足を止めずに歩き続ける。


「エド! いつからお前はそんな冷めた男になっちまったんだよ!お前がしたかった冒険てのはこんなものだったのかよ! 」


 幼馴染の屈強な男でさえ振り返らない。


「おいダイス、てめえのことは大嫌いだったからこればっかしは清清するぜ! 」


 こともあろうにそのメガネの魔術士だけは一度振り向いた。


「オレも能無しはこのパーティーにいらないと思ってたから本当に良かったよ」


「お前だけ死ね! 」


 そして最後の一人、パーティーの要にしてこのパーティーの存在意義そのものに向けて言葉を放つ。


「・・・・・・・・・・・・」


 言いたかった言葉は色々あったが言葉よりも先に感情があふれてしまった。

 今まで立ちすくんでいた俺はひざまずく。

 もはや五人の後ろ姿は見えない。それは距離が離れすぎたからか、それとも光の乱反射でそうなっているからなのかは分からない。


「くそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっ! 」


 次から次へと涙があふれてくる。


「くそっ!くそう、くそぅ・・・・・・。お前にいらないと言われたら、俺はどうすりゃいいんだよレーナ」





 それから一月もの間、俺はその街にいた。朝から晩まで酒を飲み、深夜には毎日のように娼館に行った。金のことなんか全く気にしていなかった。それでも心が満たされることは決してなかった。

 しかし一月後、あれほど稼いだ金は底をついていた。想像以上に早く無くなった。食事代も宿代もいつもは六人で割り勘していたから

 安くついていたのだ。

 金がもう無いことが分かり、ろくに使っていなかった宿屋から追い出される。


 俺はすっかり見慣れた街並みを歩く。

 荷物はショルダーバッグ一個分だけ。中身は宿屋に一泊すら出来ない金と水袋、それに二冊の本。


「着替えはあいつの荷物の中か・・・」


 思えば重たい荷物は全部エドワードが背負っていた。誰よりも力持ちな幼馴染は、誰よりも心優しかった。彼は良い訓練になるからと言っては率先して運ぼうとした。それをいつの間にか誰もが当たり前のように思っていた。


「お前がいなきゃ野宿だって出来ねえじゃねえか・・・・・・」


 一ヶ月で枯らしたはずの涙が再び湧き上がってくる。目というのは川と同じで流れがとどまることはない。

 俺は水袋を一気にあおる。


「ぶっ、これ酒じゃねえかよ」


 いつから入ってたか分からないそれをとっさに吐き出す。

 さすがにもう酔ってはいられない。そろそろ現実を見なければ。


「これからどうしよっかなあ」


 気付けばこの街の門の前まで来ていた。

 独り言が勝手に出てしまうのにも気付いている。しかしこればっかりは昔からの癖だから直らない。ダイスにも気持ち悪いのなんだの言われて直そうとしたがそれでも口をついてしまった。

 だがもう直す必要もない。独り言を言っても気に留める者は誰もいないのだから。




 門を出て振り返る。そこには塀に囲まれた北方の街。もうこの街には来ないだろう。悪い思い出しか浮かばない。


 街道をしばらく歩くと行く手が二股に分かれていた。

 迷わず右の道を選ぶ。これが指し示すのは今まで進んできた道程をさかのぼる道だ。


 俺は一人帰途を行く。


 俺たちのパーティーには剣士が三人、魔術士が三人だった。そして剣術も魔術も出来る万能なアルバートを除くと、それぞれの専門分野に分かれていた。

 剣の鋭さは随一だが受けには向かないレーナ。

 それをカバーするように巨漢なタンク役のエドワード。

 膨大な魔力量を誇るが攻撃魔術以外はからっきしなダイス。

 高精度の回復魔術を使えるが身体能力などが低く常に誰かが守らなければならないマリー。

 そして魔法陣を描き土壁や魔獣を召喚出来るが魔力量が足りないキールこと俺。


 ある程度召喚するだけなら自分の魔力だけで十分だし事実、初めのうちはそれでやっていけてたのだが敵の強さが上がるにつれて魔法陣の強度・数がより必要になると俺の魔力量では追いつけなかった。

 だから俺は魔法陣を描くことに専念し、最終的な発動は魔力が有り余っているメガネのダイスに任せていた。


 そして全体のバランスを調整するアルバート。


 俺たちは分業制でやっていた。それで三年間やれていたんだ。

 だが一つの敗北だけであいつらは方向転換し一人一人に完全さを求めるようになった。

 はじめはアルバートを除き誰もが四苦八苦していたが、次第にレーナは相手を捌けるように、エドは怪力で叩き潰せるようになった。ダイスは他の魔術も使うようになった。

 だけど俺とマリーだけは出来なかった。それでもマリーは切り落とされた腕でも元に戻せるほどの精度で唯一無二の回復士、あいつらも重要性を理解しやすかった。何よりもいきなり回復士を捨ててはもしもの場合に対応出来なかった。


 だが俺だけは違った。魔力量は増やそうと思って増やせるようなものじゃない。そもそもダイスが異常なだけで俺の魔力量は魔術士の平均よりは多い方だった。

 人並みの魔術も使えたがそれは俺たちの戦う相手のレベルでは気休め程度にしかならなかった。

 何よりあいつらは召喚士の重要度を理解しにくかった。いればオプションとして良いがそれが足を引っ張るくらいならいない方がいいとぐらいにしか思っていなかったのだろう。

 だから俺が最初にクビになった。

 全員が集まった中でアルバートにそう宣告された時には耳を疑った。こいつは何を言ってるんだと。他のメンバーと話し合った後だったらしく他の誰も何も言わなかった。

 俺は食い下がった。まだ俺たちは若い。俺やエドは18歳、他の奴らもそれくらいだしこれからじゃないかと。

 しかしあいつらは去っていった。


 どこまでも一人で歩く。何日も何日も。

目的もなく、目的があって通った道をさかのぼる。思い出深い場所を通るたびに心はえぐられる。



 俺を捨てたあいつらのことが恨めしい。恨めしいし、ダイスのことは根本的に嫌いだった。

だけど、なんだかんだ言って結局、俺はあいつらのことが好きだった。

 若さに任せて無茶出来たのも、俺の力の制限云々の前に仲間たちがいたからだ。

 結局俺はあいつら無しじゃ夢も見れやしない。


俺は行く。南、南へと。




そうして、一人になってから4年が経った。

 




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