学校の秘密
「ここでは、香山一族というのが昔から隠然たる力を持っていて、政財界のほとんどを牛耳っている。その中心となるのが香山建設であって、香山舜はそこの社長の息子なんだよ。そして、片山瑞穂は副社長の娘なんだ」
「そういう縁で、二人は許嫁でもあるのよね」
つい我慢できずにそう言うと、向こうは少し意外そうな顔をしている。
そして、「あっ、そうか」と呟いた。
「君は、彼女のグループに入ったから、もうそこまで知っているんだ」
少し違う。
むしろ、知らなかったことがまずかった。それで、彼女たちにあんな目に遭わされたのだから。
でも、そのことを、この人に話してしまっていいものだろうか……。
「君に伝えておきたいことが、まだある」
美月が逡巡していると、省吾が続けた。
「僕たちの学校には理事が5人いる。そのうち理事長を含む3人は、香山一族の人間か、もしくはその息がかかっている者なんだ。
校長先生は理事の一人に過ぎないので、あくまでも理事会の決定に従って学校を運営しなければならない」
「学校の運営も、香山ファミリーが牛耳っていると?」
省吾は頷く。
「それだけではない。教師の一部も香山ファミリーから送り込まれているし、生徒だってそうだ。香山の一族だけではなく、香山建設本体やグループ会社の役員の子弟が、毎年、大勢入学している。だから、誰が敵で誰が味方なのか、さっぱり分からない」
昨日の担任の言葉を、美月はすぐに思い出した。もっと利口になれ、と彼は言った。あれは、そういうことなのだろうか。
「中村先生もそうなの?」
思い切って聞いてみる。
「あいつは違う。ただの日和見主義者だよ」
彼らしくないきつい言葉に、美月は驚いた。
「あいつの頭にあるのは、自分が教員としてのステップを上っていくことだけだ。生徒のことなんて、これぽっちも考えちゃあいない」
「香山舜や片山瑞穂たちの一派がどんな悪さをしようと、校内には誰も止めることができる人間はいないってこと?」
「そう考えてもいい」
まさかそんなことが? この民主主義の時代に、そんなことが本当にありうることなんだろうか……?
でも、警察は?
彼女は食い下がった。
「いくら香山ファミリーが力を持っているからって、警察までには及んでいないでしょう」
「分からない」
と省吾は首を振った。
「ただ、ここから東大に進学して、文部省や警察庁の官僚になった人もいる。それに、ここの剣道部や柔道部の出身者が、地元の警察にかなり就職している」
「だからって、暴力を警察が放置するはずがない。じゃあ、あなたはそんなことが理由で、誰にも今日のことを言いたくないって訳? それじゃあ、あなたこそ日和見主義者じゃないの」
つい感情的に言ってしまった。
「違う。僕はそういうのじゃない」
激しい剣幕で睨みつけてくる。
美月も負けずに睨み返す。
「いや、絶対そう。立ち向かうのが怖いんだ。何か厭なことがあったら、じっと首をすくめて、ただそれが通り過ぎるのをじっと待っているだけの意気地なしなんだわ」
省吾は、ついに顔を真っ赤にして立ち上がった。
「人を侮辱するのもいい加減にしてくれ。僕は決して意気地なしなんかじゃない」




