不思議なクラスメイト
舜が合図すると、彼を先頭に皆でその場を引き上げる。そのまま鳥居に近づいて来たので、美月はさらに灯篭と茂みの間に身を隠した。
香川舜は、さっきほかの生徒を蹴った、スポーツ刈りの生徒の肩を抱きながら歩いてくる。
そばを通り抜ける時に、彼らの話し声がはっきりと聞こえた。
「土井。顔をやっちゃあ駄目だと、言わなかったか?」
「分かってるよ」
舜は、相手の頬を軽くパンパンと叩いた。土井の顔は見覚えがないので、別のクラスの人間だろう。
あとに続く二人のうち、一人は知っている。松木海人だ。いつも金魚の糞みたいに、舜にくっついている。
彼らが立ち去ったのを見届けると、美月は、拝殿の前にまだうずくまっている生徒に近づいた。
「大丈夫?」
声を掛けると、顔を上げた。口の中を切ったのか、少し血が出ている。
この子のことも知っている。やはり同じクラスの深見省吾だ。
眼鏡をかけた目立たない生徒である。目立たないというよりも、特別進学クラスだというのに、あまり成績は良くないようである。
担任ばかりでなく、ほかの教師からも、「お前、近頃どうしたんだ」などと言われることがある。
しかし、それぐらいなら、まだいいほうである。「お前をこのクラスに入学させたのは、間違いだったな。失望したよ」などと、露骨に言われることもあった。
だからそういう意味では、目立たないという言い方は誤りで、美月にとっては、逆に気になる存在であったと言い換えたほうがいいかもしれない。
「やあ、みっともない所を見られちゃったな」
深見省吾は、ずれた眼鏡を直しながら、照れ笑いを浮かべた。
それから立ち上がると、特に気にする風でもなく、ズボンや制服の裾をはたいている。
「みっともないとか、そんな問題じゃないわよ」
美月は、自分のハンカチで唇の端を拭いてやりながら、叱るように言った。
省吾は、初めて気づいたように言う。
「あっ、口を切っちゃったのか。やばいなあ。よく冷やして、あとで腫れないようにしておかなくちゃね」
「何を他人ごとみたいな言い方してるの。先生にすぐ知らせなくっちゃ。私が一緒に行ってあげるから」
つい悔しさが込み上げてきて、また叱るように言ってしまった。
昨日担任の中村が、「証人はいるのか」と言ったのを、彼女は思い出したのだった。
「余計なことはしないでくれ」
省吾が、初めて怖い顔をした。
美月が少し驚いていると、
「あっ、ごめん」
とすぐに謝る。
美月のハンカチで唇の端を押さえながら、にこりと笑った。
「これ、有難う。洗って返すから」
「いいよ。だって、ないと私が困るから。すぐに洗って自分で使うよ」
すると、省吾は美月の手を取った。
「庄野さん」
と突然呼び掛けてくる。
えっ……?
眼鏡の奥の澄んだ両目にじっと見つめられ、彼女はどぎまぎした。
「さっきのことは、君は何も見なかった。いいね?」
そう言うと、自分のポケットから真っ白いハンカチを出して、彼女に手渡した。「いや、でも」
「いいから、僕の言うことを聞いてくれないか、頼むから。自分のことは、自分で何とかする。それに、これは君のためでもあるんだ」
また厳しい表情に戻っている。




