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孤立無援

「ああ、斬ってやるとも」

 カツは向きになって、腰に差しているT型定規を抜こうとする。しかし、頭の部分が下になっているので、帯に引っかかって抜こうにも抜けない。


「何だ、そのへっぴり腰は、貴様なんか少しも怖くはないぞ」

「なに、怖くはないだって?」

「ああ」


「よし、これならどうだ」

 カツは、懐中から巾着を取り出すと、皺くちゃになった一万円札をユキチに向かって投げつけた。お札のほうは、ひらひらと舞い落ちる。

「あっ、怖い。やめてくれ」

 ユキチは、両手で頭を守るような仕草をする。


「これでもか、これでもか」

 カツはさらに調子に乗って、一万円札を何枚も投げつける。

「ああ怖い。怖い」

 ユキチはこっそりそれを拾っては、舌で指を舐めながら枚数を数えている。


 会場は笑いに包まれている。

「何よ、これ……。本当にくだらないんだから」

 美月は腹立たし気にそう言うと、テレビのスイッチをプツンと切った。

 そうこうするうちに、母の道子が帰ってくる。


 いつになくお洒落をしていた。酒の匂いに混じって、少しきつめの香水の匂いもする。

「美月、ごめんね。今日はパートの仲間たちと飲んできたの」

 聞いてもいないのにそう言う。何となく弁解めいて聞こえる。何かを誤魔化しているような感じもした。


「そんな訳で、今日はもう晩御飯はいいから。せっかく用意してくれたのに、ごめん。良かったらそれ、あなたの明日の朝御飯のおかずにしてくれる? お母さんはダイエットで抜くことにする」

 体よく朝ご飯の支度をさぼるつもりだ、と美月は思った。


「美月、ごめん。水を一杯ちょうだい」

 さっきからやたら、ごめん、ごめんを繰り返している。おかしい、と美月は思った。

 道子はそれを一口で飲み干すと、テーブルに顔を伏せてしまった。


 仕方なく、そばで勉強しながら待つ。

 しばらくして、道子が顔を上げた。少しうつろな表情をしている。

「お母さん、ちょっと話があるの」

「なあに? 明日にしてくれない?」


「大事な話なの」

「だから疲れているの。明日にして。明日に」

 道子はそう言うと、またテーブルに顔を埋めた。とても今日のことを相談できるような状態ではなさそうである。


 しかし、その道子が再び顔を上げ話しかけてきた。

「ねえ、美月。あなた、やっぱり大学に行きたいの?」

 何を今になってそんなことを……。

 母親の顔を真っすぐに見つめながら、次の言葉をじっと待った。


「お母さんの時給、知ってるでしょう。

 1時間で950円。1日7時間働いても、6,650円しかならない。

 1箇月20日働いても、たったの133、000円。

 だからって、これ以上働けって言っても、無理。

 中には変なお客さんもいるし、レジ打ちってとても疲れる仕事なの。これであなたを大学に行かせるなんて、絶対不可能だと思う」


 美月は今日の昼間のこともあり、ついカッとなって言った。

「今頃そんなこと言うなんて、あんまりだわ。お母さんもお父さんも、勝手なことばかりして、何よ。

 二人が離婚する時にちゃんと約束したじゃない。大学にはちゃんと行かせてくれるって。お父さんも大学を出ているから、養育費として大学の学費まではちゃんと出してくれるって

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