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猿蟹月仙のよた話  作者: 猿蟹月仙
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「30日間の延長があるって知ってる?」

 これはこれを始めるにあたり、最初に書こうと思っていたお話ですが、なんか色々やっている内に時期を逃した観のあるお話です。

「30日間の延長があるって知ってる?」

 ふらふらになって座席に戻って来た私を迎えたのは、クラスメイトのH川さんのまんまるい真顔だった。

 半年間の職業訓練を受けるに当たり、斜め後ろの席に背を向ける形で座っていたこのH川さんは、一言で言い現すと、めぞん一刻の一ノ瀬さんだw

 当人に言ったら、多分怒るだろう。ドラゴンボールの魔人ブウみたいに目を釣りあがらせて、キッと睨みつけられた事は、この半年に一度や二度ではない。

 そんな一ノ瀬さんみたいなH川さんが真顔で言うのだから、多分真面目な話に違いない。


 この日は訓練の最終日で、午前中に式を行い、午後は県庁所在地にあるハローワークへと書類を届けに来ていました。

 2階の待合い所では、同じ日に終了日を迎えた他校の生徒らしき人々と、我々クラスメイトがてんでばらばらに集まって来ては、簡単なアンケートに記入しては書類と共に提出し、名前を呼ばれるのを待っていた。

 少し遅れて到着した私とM君は、既に集まっていた仲間の元へぶらり加わり、最初の手続きを済ませたところ。

 

 書かなくて良いと書かれていた所に、気付かず記入してしまった私は、M君より大分遅れて戻ったみたいだった。


「なんの事?」

「あのね、誰もが必ず貰えるとは限らないみたいだから、今まで黙っていたんだけれど・・・」

 先に到着していたN島君がこくりとうなずき、自分は延長を貰えたと言葉短く告げた。


「どうもさっき出したアンケートに関係があるみたいなの!」

 普段から言葉の少ないN島君の発言が終わるのを待ってか、引き続きH川さんがいつもの調子で話を続けてくれた。

「私、前に職業訓練受けた時も、他の人で追加の30日貰えた人と貰えなかった人が居てね。どうもあのアンケートで、引き続きハローワークを利用して職探しするかどうかを答えたみたいで、その時、貰えた人はハローワークを利用するって答えたけれども、貰えなかった人はそうは書かなかったみたいなの・・・」


 話を聞きながら、私はもうそのアンケートにてきと~に書いてしまったんじゃないかと・・・


 そういう話は先に話してくれと・・・


 orz・・・


 ハローワークから職業訓練の受講指示を受けた失業者は、失業保険の給付期間を超えて給付金を受け取りながら職業訓練を受ける事が出来るんです。

 自分達が受けたのは、JAVAのプログラミングから、データベース、アンドロイドアプリ開発、ルーターやスイッチングハブを用いたLAN構築、ウィンドウズサーバーやLinuxを用いた設定のやり方など、さっと流した程度でした。それでも半年はあっという間で、楽しくもあり苦しくもあり、次の就職先が決まった人も居れば、私の様にまだ何も決まっていない人も居る訳で・・・


 そうこうしていると、N村さんが呼ばれて行った。そして、すぐに戻って来た。

「じゃ、俺たち先に行くんで」

「お疲れ様でした~」

 背の高いO杉さんと、N村さんは教室でも、喫煙所でも良くつるんでる二人だったので、極自然な流れから立ち去っていった。

 O杉さんは自分で仕事を始めるらしく、N村さんはまだ決まってないらしいのだけれど・・・


「N村さんは貰えなかったみたい」

「え? そんな事判るの?」

 二人を見送りながら、H川さんは自分の考えに確証を得たらしく、大きく頷いて見せた。

「ハローワークを利用しないって書いた人は、もうそこから先の話は無いから、すぐに戻って来るみたいなの」

「へえ~・・・」

 自分はその辺、話をする前に書いてしまっていたので、一応利用する方に書いておいたから大丈夫っぽいのかな?

「N村君、実家暮らしで両親健在でしょ? だいじょ~ぶよ!」

 けらけら笑うH川さんは、そこで途端にトーンを落とした。

「でも、前の時、貰えなかった子は、一人暮らしで生活が大変だったのよね~・・・」


「うう・・・俺も仕事決まらなきゃ首くくるしかないから、貰えないと大変だよ~」

 一見いつもへらへらしているA木君が、一人暮らし代表としてその心情の根深いところを吐露する。


 ま、そうなんだろうね~。


 そう言った本人が次に呼ばれる不思議w

 A木君はわたわたと係員の元へと小走りで。

 どうなる事かと皆で見守っていると、受付の方と話をしている様子。


 それを眺め、深く頷くH川さん。

「どうやらA木君も貰えるみたいね」

「なるほど・・・あれ?」

 どうも話の途中で、電話が掛かって来てしまったらしく、その場で右往左往するA木君。

 そして、ようやく戻って来ると苦笑して。


「いやあ~~~~・・・内定の電話が掛かって来ちゃって、参ったよ~・・・延長、取り消しの書類も書かなきゃいけなくなっちゃって~・・・」

「いや、おめでとうだからw」

 いやホント、ミラクルだわwww


「おめでと~! どうした事かと思った~」

「すげ~!」

「良かったね!」

「いや、ホント本命じゃないんだけど、派遣でもいいかな~って!」

 興奮気味のA木君は、わらわらと皆から祝福され、いそいそと別の書類の準備にまた離れて行った。


 一応、30日間の給付延長は上の人の承認を得た形で出されているらしいので、その許可を取り消す為の書類がまた必要になってくるらしいのだ。

 いやはや面倒なものだが、もう貰えないでどうしようと言う人には、これほどありがたい話は無い。

 何しろ、訓練途中で休み過ぎて、後半の就職活動もあまり休めないでいた人とかは、大助かりなのだ。かく言う私も、インフルエンザで一週間ダウンしたり、足の炎症で飲んだ抗生物質が合わなくて二三週間ぐでんぐでんになったりもしたしね。


 結局は私も、一緒に居たM君も30日間の給付延長を受ける事になりました。めでたしめでたし。

 余談ですが、永遠の25歳を自称するH川さんの事をめぞん一刻の一ノ瀬さんに例えた話を、ある席で他のクラスメイトに話したところ、全く判らないとの事で、世代差を実感する事が出来ました。

 卒業に伴い、講師の先生もおっしゃってましたが、この様に20代、30代、40代が席を同じくする機会はなかなか得難いものだと思いました。

 いやはや、まさか高橋留美子先生のめぞん一刻が通じない世代がある事自体の驚きと面白さ。


 もしかしたら、漫画科の授業で、蛮さんも生徒さんに漫画史として教えているかも知れませんね。

 確かにこの辺は基本な気がしますがwww

(その昔、ファンロードでラムちゃんのコスプレ姿を披露して下さった一本木蛮先生だったら、自分史の一環として教えてらっしゃいそうですがw)

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