-陰陽師の秘術-
「師匠、話って?」
太陽が沈み始め、夕日が美しく輝いている時間。
天音は月影に呼び出され、道場の跡地に来た。
中には月影が足を組んで目を閉じている。
「薄々気づいているんだろ?」
「あぁ……」
月影が多数の霊を祓うのに使った黒色の呪符。
"天滅"は禁忌指定の呪符なのだろう。
「俺にはもう時間がない。だから、晴れて陰陽師になっててめぇに、約束通り全てを教えてやろうと思ってな」
「師匠……時間って具体的にはどれくらいだ?」
「もってあと一週間ってとこだな」
「そうか……鈴花さんにはどう説明するんだ?」
「そうだな……それも考えとかねぇとな……」
月影の背中はひどく寂しげに見えた。
空は一気に暗くなり、月もまた寂しげに輝いている。
「呪力を高めろ。秘術ってのを教えてやる。だが、これはどの流派の陰陽師でも使える代物だ。それだけは忘れるな」
「わかった……」
「"呪装解放・滅球"」
「呪装……!?」
詠唱のない術が発動して、月影の周りに九つの黒球が出現する。
それは一定の間隔を取ってクルクルと月影を軸に回転していた。
「これが俺の呪装だ。これは人によって形が変わる」
「それが……秘術?」
「あぁ。ほらよ、てめぇもこれ使え」
渡されたのは黒色の呪符。
真ん中にでかでかと《解》と書かれている。
「それを持ってこう唱えろ。"我が力に応え、その姿を現せ。我こそは陰陽師。我は祓う者なり……呪装解放"」
「わかった。"我が力に応え、その姿を現せ。」
一句詠唱する度に呪符に紫色のスパークが弾ける。
陰陽師の秘術。
俺にそんなものが使えるのか……?
天音の頭の中に不安がよぎる。
「我こそは陰陽師。我は祓う者なり……」
いや、悩んでいる場合じゃない。
月影に禁術を使わせてしまったんだ。
今度は誰も失わせやしない。
誰かが居なくなるのは寂しいし、辛いんだ。
「呪装解放"」
呪符が一際強く輝き、スパークも激しさを増す。
そして、それは現れた。
鞘に収まった黒く輝く刀。
天音の周りに浮かぶ二つの紅色の勾玉。
「これが……俺の呪装?」
「ほぅ……まさか弟子がデュアルを発現するとはな……よっぽど強い願いでもあるみたいだな」
「デュアル……?」
「デュアルってのは二種類の呪装が同時に発現するやつのことを言う。これは珍しいぞ」
「ここにきてやっと俺にもチート要素が!?」
「またよくわかんねぇことを……まぁいい。構えろ、天音」
「はぇ?」
月影が天音との距離を取り、腰の短刀を抜き取って言った。
一瞬どういうことかわからず、同様してしまう。
「な……どういうことだ……?」
「ちっ……察しが悪ぃな。最後の修行をつけてやるって言ってんだ! 全力で……俺を殺す気でかかってこい! じゃなきゃ、死ぬのはお前になる……っ!」
「なっ!? ぐぅ……!」
月影の目が本気になった瞬間、天音に神速の斬撃が襲いかかった。
辛うじて刀でガードするが力の差が影響して徐々に押され始める。
「そんなもんか! 見損なったぞ!!!」
「言ってやがれ…………! ここでその首跳ねてやる……!」
「はっ! やれるもんならやってみやがれ馬鹿弟子!」
「やってやるよ馬鹿師匠!」
「「はあああああ!」」
キンッキンッと刀同士がぶつかる心地のよい音が響く。
呪装の恩恵なのか、普段より力が出るし、体も軽い。
これで勝つことが恩返しにしてやる。
俺の実力……本気を見せてやる!




