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無能にだって世界は救える!  作者: 結城 夏月
壱章 異世界に放り出された無能
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-禁術-


月影は先に屋敷に帰っているらしく、天音は月影の妹である鈴花と共に屋敷へ向かうことになった。

 鈴花は話してみれば意外と明るく、笑顔はとても眩しくてドキッとしたのも一度や二度ではない。


「マジで惚れそう……超可愛い」

「? 何か言いましたか?」

「な、なにも!」


 そんなやり取りをしている途中、ついに屋敷が見えてきた。


「な、なんじゃありゃ……」

「!? お兄様!」

「ちょっ! 鈴花さん待って!」


 目の前に映る景色は地獄と言ってもみなが頷くようなものだった。

 屋敷は……燃えていた。

 その付近には宙に浮く足のないお化けのようなものがいた。


「《(ゴースト)》っ!!」

「天音さん! 早くお兄様を助けに行かないと!」


 《霊》。

 それはこの異世界を一度破滅させかけたと言われている謎の生物。

 発生方法も種類も何もかもが謎に包まれている。

 鈴花の悲鳴じみた声が聞こえる。

 月影がこんなところでくたばるわけが無い。

 だって、今まで霊だって倒してきたと言っていた。

 でも…………


「鈴花さん……無理だ!」

「何言ってるんですか! このままじゃお兄様が!」

「数が……多すぎるんだ…………俺じゃとても祓いきれない……!」


 そう。

 いくらなんでも数が多すぎた。

 普通、霊一体につき三人程度の陰陽師が相手取ってやっとなのだ。

 でも、今は五十体はくだらない。

 すると、屋敷の方から叫び声が聞こえた。

 それは……悲鳴ではなく、詠唱だった。


「"我は陰。我は太陽。そして、我は全てを祓う者なり……天滅"!!!!」


 直後、天音でも感じることの出来るほど、強大かつあまりにも暴力的な呪力が吹き荒れる。

 そして、天音と鈴花のすぐ近くまで結界が張られ……中で爆発した。

 それは神さえも殺すことの出来る陰陽術だと思った。

 きっと月影の切り札なのだろう。


「お兄……様……?」


 だが、力には代償が付き物。

 爆発の威力が完全に散った跡に月影は無力に倒れていた。

 周りには一体の霊もいない。

 恐るべき威力、そして覚悟だ。


「お兄様! お兄様!」

「鈴花…………か……」


 うっすらと目を開けた月影はまだ息をしていた。


「俺は……もう……」

「嫌よ! お兄様がいなくなったら……私……」

「なーんてな」


 ………………は?

 月影はムクリと起き上がると、パンパンと体についた砂埃を払っていった。


「お兄様……?」

「こんなところでは死なねぇよ」

「お兄様の馬鹿! 心配したのに!」

「わりぃわりぃ」


 月影は笑いながら鈴花の頭を撫でる。

 でも、天音は気づいてしまった。

 鈴花は月影に抱きつくように泣いているから見えないのだろう。

 だけど、天音には見えた。

 月影の後ろに一瞬だけ現れた大鎌を持った死神が。


「師匠……あんた……」

「? 天音さん、どうしました?」

「いや……なんでもない……」

「天音、後で話がある」

「わかった……」

「?」


 きっとあれは禁術の類いなのだろう。

 月影は天音たちを守るために自分の身を犠牲にした。

 ったく……どんだけシスコンなんだよ……師匠。

 おそらく月影にはもう時間がない。

 恩は返してみせる……



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