-禁術-
月影は先に屋敷に帰っているらしく、天音は月影の妹である鈴花と共に屋敷へ向かうことになった。
鈴花は話してみれば意外と明るく、笑顔はとても眩しくてドキッとしたのも一度や二度ではない。
「マジで惚れそう……超可愛い」
「? 何か言いましたか?」
「な、なにも!」
そんなやり取りをしている途中、ついに屋敷が見えてきた。
「な、なんじゃありゃ……」
「!? お兄様!」
「ちょっ! 鈴花さん待って!」
目の前に映る景色は地獄と言ってもみなが頷くようなものだった。
屋敷は……燃えていた。
その付近には宙に浮く足のないお化けのようなものがいた。
「《霊》っ!!」
「天音さん! 早くお兄様を助けに行かないと!」
《霊》。
それはこの異世界を一度破滅させかけたと言われている謎の生物。
発生方法も種類も何もかもが謎に包まれている。
鈴花の悲鳴じみた声が聞こえる。
月影がこんなところでくたばるわけが無い。
だって、今まで霊だって倒してきたと言っていた。
でも…………
「鈴花さん……無理だ!」
「何言ってるんですか! このままじゃお兄様が!」
「数が……多すぎるんだ…………俺じゃとても祓いきれない……!」
そう。
いくらなんでも数が多すぎた。
普通、霊一体につき三人程度の陰陽師が相手取ってやっとなのだ。
でも、今は五十体はくだらない。
すると、屋敷の方から叫び声が聞こえた。
それは……悲鳴ではなく、詠唱だった。
「"我は陰。我は太陽。そして、我は全てを祓う者なり……天滅"!!!!」
直後、天音でも感じることの出来るほど、強大かつあまりにも暴力的な呪力が吹き荒れる。
そして、天音と鈴花のすぐ近くまで結界が張られ……中で爆発した。
それは神さえも殺すことの出来る陰陽術だと思った。
きっと月影の切り札なのだろう。
「お兄……様……?」
だが、力には代償が付き物。
爆発の威力が完全に散った跡に月影は無力に倒れていた。
周りには一体の霊もいない。
恐るべき威力、そして覚悟だ。
「お兄様! お兄様!」
「鈴花…………か……」
うっすらと目を開けた月影はまだ息をしていた。
「俺は……もう……」
「嫌よ! お兄様がいなくなったら……私……」
「なーんてな」
………………は?
月影はムクリと起き上がると、パンパンと体についた砂埃を払っていった。
「お兄様……?」
「こんなところでは死なねぇよ」
「お兄様の馬鹿! 心配したのに!」
「わりぃわりぃ」
月影は笑いながら鈴花の頭を撫でる。
でも、天音は気づいてしまった。
鈴花は月影に抱きつくように泣いているから見えないのだろう。
だけど、天音には見えた。
月影の後ろに一瞬だけ現れた大鎌を持った死神が。
「師匠……あんた……」
「? 天音さん、どうしました?」
「いや……なんでもない……」
「天音、後で話がある」
「わかった……」
「?」
きっとあれは禁術の類いなのだろう。
月影は天音たちを守るために自分の身を犠牲にした。
ったく……どんだけシスコンなんだよ……師匠。
おそらく月影にはもう時間がない。
恩は返してみせる……




