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無能にだって世界は救える!  作者: 結城 夏月
壱章 異世界に放り出された無能
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-無能だって戦える-

 試験の第一回戦。

 ルールは相手の降参もしくは戦意喪失だ。

 審判が「勝負あり」とした場合も終了になる。

 武器や呪符に基本、制限はない。

 ただし、殺傷力の極めて高いものは使用禁止だ。


「なんだァ? お前みたいなひょろっちぃのが陰陽師になりたいだと? ハッ! 陰陽師もなめられたもんだな!」


 模擬戦の相手は天音に向かってそう言い放った。


「言ってろ……見せてやる! 異世界から来た俺の隠れた力!」


 天音の少しイタイ発言と同時に開始のホイッスルが鳴り響いた。

 天音は腰の後ろに携えているゴム製の短刀を逆手に抜き取り、低姿勢のまま相手に突撃する。

 相手は腰からクナイのような短剣を両手で構えている。

 もらった……!

 天音は腰にぶら下がるポーチ型のケースから一枚の呪符を取り出し、加速中の自分の目の前に投げて短刀を握ったままの手で二指を立て詠唱した。


「"我は一陣の風になりて、拒む事は許されず……瞬風"!」


 呪符が緑の輝きに変化し、天音の両脚を纏う。

 突如、天音の体がフワッと浮いたかと思うと、一瞬にして相手の背をとった。


「な……っ!?」


 バシィン!と強烈な音が響いて相手が倒れる。

 思い切りゴム製の短刀でうなじを叩いたのだ。

 あまりにも一瞬で勝負が決まったため、会場が静寂に包まれる。


『ウィナー! 八重樫天音ー!!!』


 審判の大声が響く。

 修行の成果はそこそこ実感することができた。

 後は優勝するだけ。

 なれる……俺は陰陽師になれる!


 一方、天音の自信たっぷりの表情を見た月影は不安を募らせていた。

 自分への自惚れは失敗、または敗北に繋がることを知っているからだ。

 そういうことも教えておくべきだったと今さらながら後悔する。


 その後、二回戦、三回戦と、天音は順調に勝ち進んでいった。

 そして、遂に決勝戦。

 相手は捕縛術で有名 (月影情報)な朧月流陰陽術の使い手、五十嵐(いがらし)(ながる)という女の子だった。


「にぃちゃんあんまり強そうには見えへんけど、大丈夫? うち、結構強いで?」

「あぁ、気にするな……負けねぇから」

「へぇ! にぃちゃんおもろいことゆうやん! うち、楽しみになってきたわ!」


 関西弁が特徴的な流は肩辺りで切りそろえられた髪をたなびかせながら楽しそうに話す。

 その目はあまりにも場違いな輝きを放ち、天音も少し動揺してしまうのを隠せない。


「ほな、始めよか!」

「あぁ……!」


 ピィィ!とホイッスルが開戦を知らせる。

 天音はとりあえず様子見として短刀を右手に握ったままいつでも呪符を取り出せる様に構えた。

 対する流は呪符を三枚も取り出して詠唱を始め……なかった。


「手始めにこれからや! "封速"!」

「な……!? 詠唱無しだと……!」


 突如地面から紫色に発光する鎖が現れ、天音の両脚を絡めとったのだ。

 乱暴に鎖をちぎろうと力を込めるが全く効いていない。

それに、詠唱のない陰陽術など聞いたことがない。

 どうなってやがる……!


「どうなってる? そう思ったやろ? でもな、簡単な事やねん。イメージで補ってる、それだけや」

「人に手の内明かしてどーすんだよ」

「バレたところで対処なんかできへんって訳や」


 どさくさに紛れて鎖を外そうとするが上手くいかない。

「ちっ」と舌打ちしつつ呪符を一枚取り出す。

 だが、それは意味をなさなかった。


「遅いわ〜"消魔"」

「嘘だろ……!」


 流の二枚目の呪符が赤く発光し、消滅したかと思うと、天音の持つ"炎舞"の呪符が焼滅したのだ。

 ここまで陰陽師同士の戦いに慣れている相手が陰陽師見習いだなんてふざけた話だ。

 この戦いに勝機があるとすれば、武器での戦いに流がどれだけついてこられるか、だ。

 負かせてやるぞ……俺が陰陽師になるんだ!

 ふぅ……と息を大きく吐いて短刀を握る右手に力を込める。

 次の瞬間、天音の体が高速で行動を開始した。

 まず、両脚を縛る鎖を力ずくで斬る。

 そして、二枚の呪符をケースから抜き取り、わざと相手に見せるように一枚だけ構えた。


「っ! "消魔"!」

「"我は一陣の風になりて、拒む事は許されず……瞬風"!」

「なんで!? 消したはずやのに!」


 読みが当たった。

 "消魔"は呪符一枚を対象にしか発動できない。

 そう考えた天音はあらかじめ用意しておいたダミーの呪符を消滅させ、本命である"瞬風"の呪符を使用したのだ。


「この勝負……勝たせてもらうぞ関西弁娘!!!」


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