-月影流陰陽術十九代目師範代月影-
「《陰陽師》……? お前……なんなんだ?」
「あ〜なんだ……説明……めんどくせぇな……」
思わず身構える。
相手の服装、雰囲気からして怪しすぎる。
「お前は王国騎士団にはなれねぇよ。だが、お前には敗北をだれよりも悔しむことができる。だから、俺はお前を弟子にする。それだけだ」
「なっ……! お前……なにを訳の分からないことを……!」
「だからな……お前を強くしてやるって言ってるんだ」
「俺を……強く……?」
「そうだ。どうだ? 悪い話じゃないだろ?」
「お前の弟子になって……俺は本当に強くなれるのか……?」
「そんなもんお前次第だ。よし、ついてこい」
「いやいや、お前の弟子になるのはいいんだが、俺は見ての通りボロボロなんだよ」
「あぁ……仕方ねぇ」
トントン拍子で話が進んでいき、何故か天音は月影の弟子になることになった。
天音が怪我していることを告げると、月影は和服の懐から一枚の《お札》を取り出した。
「なんだそれ?」
「これは《呪符》だ。陰陽師にしか使えない俺たちの武器ってことになるな」
「呪符……使ったら呪われそうだな」
「言ってやがれ…………"求めるは治癒の加護。この者に癒しを与えん……天恵"」
「おぉ……!」
月影が呪符を天音にかざし、空いた左手の人差し指と中指を立て、口の前に持っていき、目を瞑って唱えた。
天音の体がうっすらと輝き、痛みが消えていく。
「ほら、これでいいだろ。行くぞ」
「あぁ……!」
俺は強くなれる……世界を救ってみせるぞ……!
天音は心の中で決心して月影の後をついて行った。
「着いたぞ。とりあえず座ってろ」
病院を出て車?のような乗り物に揺られること三時間。
城下町を出たようで、目の前に広がるのは大きな和風の屋敷だった。
入口には月影と同じく和服を着た老人が立っている。
「おかえりなさいませ月影様。やっとお弟子様を見つけてきたのですね」
「あぁ。こいつの部屋の配備を頼む」
「かしこまりました。どうぞ、荷物はこちらに」
「あ、ありがとうございます」
「おい、こっちだ」
連れてこられたのは道場のような場所。
道場の壁には《月影流陰陽術》と書かれていた。
「月影……お前何歳だよ……」
「師匠と呼びやがれ、二十だ」
「わ、わかった。で、でも、二十歳で道場開くって……」
「馬鹿言うな。俺は十九代目月影だ。代々この道場で一番優秀な陰陽師が月影の名を継ぐ」
「へぇ……で、俺を弟子に取ったってことは、跡取りがいないと?」
「まぁな……お前何も知らないのか。月影流は昔から暗殺に優れているからきらわれてるんだよ」
「おぉ……暗殺……! かっけぇ!」
「何言ってんだてめぇ……そうだ、お前の名前聞いてなかったな、名乗れ」
「たしかに……八重樫 天音、十六歳だ」
「天音か、十六となると……」
月影が考えこむように顎に手を置いた。
すると、突然部屋の扉が開かれて女性が入ってきた。
「お兄様お茶を…………だれですか?」
「あぁ、紹介する。こいつは妹の鈴花。お前と同じく十六だ」
「えっと……お弟子様でしょうか? よろしくお願いしますね」
鈴花はニコッと笑ってお茶を差し出してくれた。
よくよく見るととても綺麗だ。
腰まで伸びた黒髪。
身長はそこそこ高く、体もスラッとしていてまるで絵に書いたような美人だった。
胸もそこそこ大きい。
Dくらいだろうか。
「何エロい目で見てんだ天音。ぶっ殺すぞ」
「え、なんでわかっ……じゃなくて、ないない! ないです!」
「ふふふ……二人とも仲がいいんですね。それでは私は失礼します。天音さん、よろしくね」
「ふぁ、ふぁい!」
「こいつを弟子に取ったのは間違いだったか……」
月影は重度のシスコンだな、と決めつけて、改めて月影を見る。
月影は「はぁ……」とため息をついて向き直った。
「じゃあ、お前を弟子に取るにあたって、説明しなきゃいけねぇことが山ほどある。覚悟はできているか?」
月影の纏う殺意のオーラのようなものが一層色濃くなったように感じた。
圧倒的プレッシャー。
模擬戦をした巨漢の男とは比べ物にならない。
近寄るだけで意識が飛びそうになるほどの圧力だ。
ゴクリと唾を飲む。
お前はこのレベルの化け物相手戦う覚悟はあるのか?という質問だろう。
そんなもの、答えは簡単だ。
「当たり前だ! そんなもの、師匠の弟子になると決めた時からある!」
「へっ……ガキがいきがるじゃねぇか……わかった。そこまで言うならお前に教えてやるよ……月影流陰陽術の全てを……な」
月影は不敵に笑って天音を見た。
八割程の殺気を宿した視線を笑って流した天音を見て、月影は確信した。
こいつはとんだバケモノになる……と。




