-取引-
「ちっ……逃がしたか……」
王に命じられるがままにセリーを追ってはみたが彼はリンネより実力があるようだ。
リンネも随分と痛手を負った。
傷は再生するとしてそれまでの時間でもう一度作戦を練らなければ。
突然、ズキリと頭に痛みが走った。
「うぐっ…………なんだこれは…………っ!」
知らない記憶が流れてくる。
元ある場所に戻るかのように凄まじい勢いで流れてくる。
本当になんなんだこれは……!
自分が自分でなくなるみたいだ。
小さな少女と和服の年長者。
時は進んで、大きくなった少女と一人の少年。
流れてくる感情はなんだ……?
幸せ……?
知らない。
知らない知らない知らない!
こんな記憶は俺のものじゃない!
頭の中がグチャグチャになる。
俺は……一体なんなんだ……?
そこでリンネの意識は途切れた。
一言とともに。
「鈴花…………」
「どういうことですか? 調子に乗っているのであればここで斬り捨てますよ」
「本気ですって! 裏切られたんですから僕も裏切ってやるんです。それが理由じゃダメですか?」
「そんなもの信用出来るわけが……!」
鈴花は至って真剣だが対するセリーは未だにフラフラとした態度だ。
こんな男を信用しろというのか。
私にはそんなことできない……
すると、ずっと黙っていた直智が口を開いた。
「本当に精神干渉系魔法を使えるんだね?」
「えぇ。可能ですよ。僕自身なぜかわかりませんが……僕の前世の人間が使えたんでしょう」
「なるほどな……その見た目。君の前世がわかった気がするよ」
「へぇ……それはおもしろい。是非その話を聞きたいものですねぇ」
「ならこうしよう。君は自分の前世に興味がある、そうだね?」
まさか直智は交換条件を出そうというのか。
大量の人類を殺してきたこと霊に。
「それはもちろん! 僕だって自分が何なのか、とても興味がある」
「東雲先生……!」
「わかっているさ。セリー君と言ったか、こういう条件はどうかな? 僕は君の前世のことを出来る限り細かく教えよう。その見返りとして君は僕たちに協力する、というのは」
そんなことセリーにしかメリットがないではないか。
こちらは教えるだけ。
相手は協力する? 裏切る可能性のほうがずっと高い。
裏切られたという話すら嘘かもしれないのに。
この男は一体何を考えている。
「いいですね! わかりました。その交渉をのみましょう!」
「もちろん、君の前世を教えるのは協力してからだがね?」
「ふむ……いいでしょう。ではないとあなた方には不安要素が濃さそうですしね」
「あぁ。物分りが良くて助かるよ。では、まず天音君を治してくれないか?」
直智がベッドで眠る天音を指さす。
セリーはそれを見て微かに笑った。
「八重樫 天音……君は僕に耐え難い屈辱を与えた……僕は絶対に忘れませんよ……」
ゴウッとセリーから呪力が溢れた。
この量は異常だ。
ここで殺す気か……!?
鈴花がもう一度呪装を解き放とうとした瞬間、更に異常なことが起こった。
「けれど……君は僕に希望を与えてくれた……! こんなに殺したいと、殺し合いたいと思ったのは君が初めてだ……! こんなちっぽけな事で壊れないでほしいんですよ……だから、もう一度立ち上がれ」
シュバッと《神力》が溢れた。
霊が……神力……?
そんな馬鹿なことがあるはずが……
鈴花が驚いて目を見開いていると直智が小声で話しかけてきた。
「さっき言ったとおり、精神干渉系魔法を使えたのはずっと前の騎士団長だけだ。僕の予想が正しければ彼はその騎士団長だ」
「そ、そんなことが……」
「思いが強い人間ほど霊になりやすいと言っていたね? 当時の騎士団長は最年少で団長になり、誰よりもこの世界のことを思っていたらしい。そんな彼が死んだら霊にならないか?」
「わかりません……もしもそうだとしたら、彼の行動は矛盾しています……守りたい世界を自分の手で破壊して……」
「彼には昔の記憶は残っていないんだと思う。その王とやらに記憶を操作されて蘇った、とかね」
わからない。
彼らが自分の意思で行動していないというのか?
それはない。
彼らは『楽しんで』人を殺していた。
仮にその根っこが王による洗脳だとしても。
許されることでは決してない。
この間にもどこかで現れた霊が人を殺しているかもしれないのに。
「準備できましたよ。少し離れていてください」
吹き荒れる呪力と神力の量は師範代レベルの陰陽師の呪力と上位騎士の神力の軽く倍は見える。
本当に何者なんだこの霊は……
「さぁ目を覚ましてください、天音。戦いの時だ!」
黒紫と薄黄色の光が同時に弾け、無能と呼ばれた少年は目を覚ます。




