-無能の嘆き-
試験大会の第一戦目はまさかの天音と先ほどの巨漢だった。
「ワハハッ! 兄ちゃん、これも運命だ! 少しは手加減してやるから、存分にかかってこいやあ!」
「言われなくてもやってやるっつーの!」
二人がコロシアムの中央ステージで向かい合う。
そして、始まるのゴングが鳴り響いた。
「兄ちゃんからこいやあ……期待してんぞ〜!」
見え見えの挑発にわざと乗って天音は駆け出した。
体格なら圧倒的に負けてる……なら、後ろからの不意打ちでどうだ!
天音の体が相手の剣の間合いに入る。
だが、踏み込まずに横に飛んで後ろに回り込む。
「とった!」
「ぬぉ!? だが、甘いわ!」
巨漢は背後からの予想外の一撃に一瞬だけ驚いたが、流石は王国騎士団候補。
瞬時に木剣を背後にまわして天音の木剣を弾いた。
「馬鹿な!?」
「出直してこい、青二才が!」
ボキッ!と体の内側から嫌な音がして、天音は意識を失った。
「少し驚いたが……お前がここに来るのは百年、いや、千年はやいわ!」
全治一週間。
圧倒的に叶わなかった。
自分は無能だった。
病院の病室の中、天音の頭の中には絶望が色濃く渦巻いていた。
「そ、そんなに気にしなくて大丈夫ですよ! あの人たちは本当の強者なんですから!」
励まそうとしてくれているのは相談に乗ってもらっていたギルドの看板娘、リリィだ。
「よくないんだ……俺は……強くないと……」
「そんなに悲しそうにしないでくださいよ。あなたにはまだ道は残されていますよ、きっと」
リリィはそう言って天音の頭を優しく撫でた。
大きな胸が腕に当たっていて、天国だった。
でも、今はそんな事言ってる場合じゃない。
「リリィさん、ありがとう。俺はもう大丈夫だから、一人にしてくれ」
「わかりました。お大事に」
リリィは少し寂しそうに笑い、部屋を出ていった。
「くそ! くそくそくそくそくそ! どうしてなんだ! 俺には特別な力なんてないのか!? それじゃあどうして俺はここに召喚されたんだ! 何か特別がないと……俺はただの学生なんだよ……」
自然と涙が出る。
もう挫けてしまった。
涙で顔をぐしゃぐしゃにしていると、部屋のドアがいきなり、暴力的に開かれた。
「天音ってやつはお前か? 俺の名は月影。上からの指示を無視して、お前を《陰陽師》にスカウトしにきた」
そこに居たのは黒い和服の様な服を着た目つきの悪い青年だった。




