-完全照準-
スコープを覗き込んで敵との距離を把握。
それに合わせて角度を変えることにより必中の構えをとる。
ここまでわずか一秒。
「あの人、強い……」
そして、《完全照準》の二つ名を持つ瀬戸 龍斗は引き金を引いた。
ズバンッと霊の体を引き裂いてゆく。
まだまだ数が多い。
だが、諦める訳にはいかない。
一枚の呪符を取り出して《無詠唱》で発動。
「"炎舞"!」
天音の周りから炎が舞い上がり、一度に大量の霊を倒していく。
"炎舞"は基本攻撃陰陽術の一つで術者の呪力によって威力が大きく変動する特性を持つ。
もちろん呪装で強化している天音が発動した"炎舞"は凄まじい威力を発揮するのだ。
しかし、状況はあまりよくない。
呪装で強化していても呪力は無限ではないので、陰陽術の連発も避けたいところだ。
だが、呪力よりも先に集中力が切れそうだ。
先が思いやられる……
心配したのもつかの間、天音の最も嫌う相手が現れた。
「やあやあやあ! お元気でしたか、八重樫 天音?」
「てめぇ……!」
目の前に現れたのは心底楽しそうに戦うステージ五の霊、セリーだった。
「さあ、続きを始めましょうか……!」
《神器》とは上位の《騎装》の持ち主だけが使用を許される武器だ。
龍斗の《神器グングニル》は彼の《騎装オーディン》のオプションである。
使いこなせば龍斗のように《神器》だけの召喚も可能となる。
「少し劣勢。オーディン、力を貸して」
『良かろう。久しぶりの神器性能の使用だ。存分に楽しむが良い!』
「"アンリミテッドオーバードライブ"」
バチンッと銃身にスパークが弾け、純白がひときわ輝く。
龍斗は普段通り照準を合わせて引き金を引いた。
放たれたのは神力で強化された弾丸ではなく、青白い閃光を放つ雷の槍。
槍は敵を貫かず地面に激突したかと思った瞬間、雷が地面に広がり無数の霊を焼き焦がしたのだ。
神器共通の固有性能、《アンリミテッドオーバードライブ》は神器の特徴をより際立てることができる、という性能だ。
龍斗の扱う《神器グングニル》の場合、銃身に宿る雷の力を暴走させ、弾丸すらも雷に変えることにより威力を増幅させる、という効果がある。
この状態が保てるのは一発だけ。
連続で使用すると神力が底をついてしまうので一回の戦いで一度しか使えない切り札なのだ。
『主よ、嫌な気配を感じる。注意せよ』
「オーディン、君が言うほどなら、相当、厄介?」
『あぁ。主一人では荷が重いかもしれぬ』
「そっか。そいつは、彼に任せる」
『了解した』
《騎装オーディン》の人格と会話をし、再び狙撃を始める。
実力は折り紙つきと噂される彼を見定めるにはいい機会だ。
龍斗はまた一体と霊を射殺しながらうっすらと笑った。




