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無能にだって世界は救える!  作者: 結城 夏月
参章 第二次霊大戦
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-開戦の予感-

 ひたすらに、闇だけが広がる世界。

 僕達、《(ゴースト)》だけの世界。

 あぁ、なんて美しいんだ。


「おいおいセリー、なんだぁその剣の持ち手」

「やあダリン。これは王国騎士団の団長さんを殺したときに拾った《騎装》ですよ」


 剣の持ち手だけに見える騎装をチラチラと見せる。

 なかなか面白そうなので使ってみようと思うのだ。


「騎装って言えば、武器が主を選ばねぇと使えねぇんだろ? どぉしててめぇが使えんだよ」

「そんなこと……簡単ですよ? 無理矢理僕を主にするように脅しただけです」

「てめぇも、まったく酷いことするじゃねぇか」

「幼い子供相手に全力で殴りかかる君には言われたくない言葉ですね」

「なっ!? てめぇも魔法かましただろぉが!」


 このやり取りも実に楽しい。

 《人として生きていた頃》とは比べ物にならないほど充実している。

 そういえば、王に呼ばれていたな。

 新しいステージ(ファイブ)が生まれたの何だの。

 世話係か、しょうに合わないが仕方ない。

 ここでは王の命令は絶対。

 逆らえば命はないのだから。

 王が与えてくれるのは《命》と《戦い》、そして《力》だ。

 僕達はそれだけでいい。

 それさえあれば自由が許されるのだ。

 戦い、殺し、霊を《作る》。

 最高のサイクルだ。

 僕は今日も幸せに過ごす。

 殺しに溢れた生活をおくる。

 嗚呼、なんて素晴らしい世界なんだ!






「二回目の……《霊大戦》……ですか?」

「あぁ。神崎(かんざき)を封印することが我々と霊との休戦協定だったのだ。それが相手からとはいい、こちらも条件は無効になったわけだ」

原谷(はらや)さんたちは……霊とコミュニケーションがとれることを知っていたんですか……?」

「あぁ、知っていた」

「……! 知っていて、なぜその情報を公開しなかったのですか!」

「したところで状況は覆らん。我々は休戦状態でいることが最善なのだ。戦い続ける限り、人類に勝ち目はない」

「な、なぜそう言いきれるのですか!」

「これも秘密事項だが……まぁよい。霊の発生方法が深く関わるからだ」


 バンッ!と鈴花(すずか)が机を叩いて立ち上がった。

 さすがの異世界人の天音(あまね)でさえ、上の連中は情報を秘匿しすぎだと思ったのだ。

 鈴花の目が怒りの色に染まる。


「そんな事まで知っていて、公開しない理由はなんです!? 情報を秘匿するから多くの犠牲が出るのではないですか!?」

「まぁそう急くな。公開しても状況は変わらん。むしろ悪くなると考えただけだ」

「な、なぜ……!」


 ギッ、と原谷の目つきが変わる。

 本当に知りたいのか? 知って恐れないのか? と問いかけるように怪しむ表情だ。

 これには鈴花も怯えるしかない。

 それほど恐ろしい表情だった。


「霊は死んだ人間から生まれる」

「なっ……!?」

「そんな馬鹿なことが……!」


 天音も声を上げてしまう。

 確かにそういう理由なら休戦状態がベストだと思う。

 戦い続け相手を倒したところで、こちらが倒れれば相手が増える。

 勝ち目がない、としか言えないだろう。


「正確には自らの死に大きな悩みを持って死んだ人間に限られる」

「では、どうして相手は休戦協定なんてものを……」

「その当時、我々には切り札がいたそうだ。その時の王国騎士団団長。最強の騎装《聖剣エクスカリバー》に選ばれた最強の騎士だ。彼は一瞬にして多くの霊を祓ったと言われている」

「そんなもん……英雄としか呼べないだろ……」

「そうだ。彼は英雄だ。そして今、そのエクスカリバーは敵の手の中にある」


 最強の英雄。

 王国騎士団元団長。

 最強の騎装《聖剣エクスカリバー》。

 頭がおかしくなりそうだ。

 勝てる見込みはゼロパーセント。


「だが、安心するがいい。エクスカリバーはやつに選ばれた主しか使うことができぬ。これが宝の持ち腐れというやつだ」

「なるほど……」

「これらの事より、二人にはやってもらわなければならないことがある。陰陽師と王国騎士団の総力を二つに分け、それぞれを指揮してほしい」

「は?」

「はい?」


 いきなり何を言い出すのか。

 指揮なんてものを陰陽師になりたての自分に任せるのか……


「無論、二人には高序列の騎士をつける。仲良くしてやってくれ」

「俺には無理だ」

「私は……やります」

天野(あまの)、助かる。八重樫(やえがし)、お前の実力は折り紙つきだと聞く。我々の命令を無視してまで弟子をとらないと言っていた月影(つきかげ)が選んだ人間だ。力を貸して貰えないだろうか?」

「俺には……そんな実力はないんだ」


 原谷は問い詰めるように天音を睨んだ。

 命令として言わないのは自由を尊重するためか、それとも他に意図があるのか。

 原谷は続ける。


「お前は将来、月影流を継ぐことになるだろう。今回はその訓練と思ってほしい」

「俺は……月影流を継ぐのは鈴花だと思う……俺に継ぐ資格はない」

「私は……」

「わかった……奥の手を出そう。もし今回の作戦を手伝ってくれたなら……死んだ月影に会わせてやる、と言ったらどうする?」


 ギクッ、と体を震わせてしまう。

 もう一度、月影に会えるのなら何をしたって構わないと思った。

 だが、これが本当の話なのかわからない。


「疑っているな? 私が使う陰陽術には《降霊》というものがある。名前の通り、死者を一時的に幽体として呼び出せる」

「鈴花……本当か……?」

「はい……原谷さんの《降霊》は彼にしか使えません」

「その通りだ。この術が厄介だ、と命を狙われたことも少なくない」

「そうか……わかった。力を貸す。その代わり、その約束を破ったら、俺がお前を殺す」

「ハッハッハッ! 威勢がいいな、嫌いではない。助かる。今日はここに泊まっていくといい。編成に関する会議は明日だからな」


 原谷は資料をまとめて会議室を出ていった。

 鈴花は座ったまま動かない。


「天音さん……私、怖いです……」

「え……? 先に言い出したのは鈴花じゃ……」

「そうですが……」

「どうかしたのか?」

「いえ……この話は戦争が終わってからします」

「そ、そうか」

「私は先に部屋に戻っていますので、お先に失礼します」

「あぁ。また後で」

「はい。また後ほど」


 鈴花も出ていって会議室に一人取り残される。

 天音は悩んでいた。

 自分がこの世界に召喚された理由について。

 霊を絶滅させるため?

 街の復興を手伝うため?

 全くわからない。


「俺は一体何をすればいい……」


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