-無能への道しるべ-
とりあえず地図を入手した。
この世界はめちゃくちゃに広い。
地図を見ればほとんどが陸地なのだ。
地図をくれた人が言うに、地図の隅に見える海より先はまだ誰も見たことがないらしい。
そして、その海の名前が魔海。
その魔海には強力な《霊》という生物?が大量に生息していて、それと戦う《王国騎士団》も歯が立たないらしい。
「ここにきてやっと異世界らしいものが……! 霊かぁ……俺は王国騎士団になってそれを倒せばいいんだなっ!」
俺が地図をくれたおじいさんの前でそう言うと、
「王国騎士団はやめておけ……とても凡人にはなれる職業ではないのじゃ……」
おじいさんはそう言って歩き去っていった。
少しムカッとしてしまった。
「俺はこう見えても選ばれた勇者なんだぞー! おのれぇ〜見てろぉ!」
天音は遠くなったおじいさんの背中に向かって叫んだ。
次にギルドというものを見つけた。
ここでは様々な仕事の説明や相談に乗ってくれるらしい。
天音は自信満々でカウンターに並んだ。
そして、天音の番が来る。
「次の方、どうぞ〜!」
「は、はーい。お願いします!」
そのカウンターに立つ女性はとても綺麗だった。
しかも、胸がでかい。
「ご相談ですか? 案内ですか?」
「んーあー……どっちもなんだけど、そ、そのぉ……王国騎士団ってのにはどどどうやったらなれるんですか?」
コミュ障全開。
現世でちゃんとコミュニケーションをとる練習をしておけばよかった。
自分でも引くほど噛んだ……
「え…………そのぉ……王国騎士団というのは選ばれた精鋭だけがなれる職業でして……あなたの体格では少し無理があるかと……」
「そんな馬鹿な!?」
確かに身長はそんなに高くない。
それはまだ高校生だから許して欲しい。
でも、体は鍛えている。
いつ引きこもりの生活とおさらばするかわからなかったからだ。
「その、試験みたいなやつはあるのか?」
「え、えぇ……ちょうど明日向かいのコロシアムで行われますが……私はオススメはできま……」
「わかった! 俺は出るぞ!」
「でも……優勝した一人だけしか……!」
「問題ない! 俺は勇者になる男だ!」
その試験の概要が書かれた紙を見る。
どうやら木剣を使った模擬戦らしい。
相手の剣を手から落とすか、相手を降参させた方が勝ち。
極めて簡単なルールだ。
もちろん剣なんて握ったことはないが……
そして、自分を勇者と信じていた男の自信はいとも簡単に打ち破られる……
試験当日。
待機室には見ただけで強者とわかる者ばかりが集っていた。
やはり天音は浮く存在なのだろう。
ムキムキの男が話しかけてきた。
「おいおい……おいおいおいおい! 兄ちゃんみたいなガキがここでなにしてんだよ。ここはお前みたいなガキが来る場所じゃねぇ! わかったならとっとと帰んな!」
「言ってくれるじゃねぇか……ぶっ潰してやるよ! てめぇみたいな筋肉の塊、相手にもならねぇよ!」
「ワハハッ! 気に入った! こいつぁおもしれぇ兄ちゃんだ!」
元々悪い目つきをさらに悪くする天音と楽しげに笑う巨漢の男。
二人は何故か楽しそうだった。




