-破壊の拳-
「ステージ五……お前、セリーの仲間か?」
「ご名答! 俺はあのセリーが認めたお前と戦いてぇ! それが目的で来た。安心しろ、他に仲間の《霊》は呼んでねぇ! お前ら二人でかかってきやがれ!」
「舐めやがって……! 鈴花! 行くぞ!」
「わかりました天音さん!」
改めて巨漢、ダリンを観察する。
武器は装備していないように見えるがセリーのように隠し持っているか魔法で戦う可能性もある。
仮に素手で戦う武闘家スタイルだとしても、セリーと同レベルと考えると荷が重い。
だが、今回に限って言えばそんなことはない。
なぜなら、横には陰陽師である鈴花がいるのだから。
「"呪装解放・月詠ノ刀"!」
「"呪装解放・双竜剣"」
天音の手元に黒一張の刀と呪力を炎に変えて荒れ狂う球体二つが顕現する。
人のものではない右手、ロストストーンが強く発光し月詠ノ刀に応える。
そして鈴花はというと、二本の刀を持っていた。
初めて見る鈴花の呪装。
溢れ出る呪力が二本の刀に炎を宿す。
「月影流陰陽術皆伝・八重樫 天音……お前をここで殺す!」
「月影流陰陽術皆伝・天野 鈴花……参ります!」
ドカンッ、という爆裂音と共にダリンへ突撃する。
ダリンは余裕の笑みを浮かべて言った。
「ステージ五、《豪腕》のダリン! お前らを殺して俺は最強になる! "カースドエンチャント"!」
ダリンの右腕がほんの一瞬だけ大きく膨らんだ。
こちらは突撃中。
回避は不可能なので迎撃する。
「はああっ!」
「ぬんっ!」
呆気なく……あまりにも呆気なく天音の体は吹き飛んだ。
見えたのは天音の刀とダリンの拳が激突した瞬間まで。
その直後にこの有様だ。
尋常じゃないバカ力である。
「そんなものか! ぬっ!」
「私もいることをお忘れなきよう……はあ!」
「ちっ……! こういうのはセリーの相手だろぉが!」
鈴花の二刀を用いた高速攻撃がダリンを圧倒する。
月影も異常だと思っていたが、彼女も馬鹿げた実力だ。
月影流陰陽術にしか扱えない秘術"影歩"。
天音の扱う"瞬風"とは比べものにならないレベルで速度が上昇し、おまけに存在をある程度薄くできるというもの。
鈴花は天音とダリンが激突している間に詠唱していたのだ。
四方八方から繰り出される終わりなき連続攻撃にステージ五の霊も窮地に立たされた。
これが鈴花の実力……強すぎる……
「ちっ……この手はあまり使いたくなかったんだが……そうは言ってられねぇみたいだな。耐えれるものなら耐えてみやがれ、陰陽師ぃぃいい! "エクステンション"!」
ドバァァァァン、とダリンから呪力が溢れ、接近していた鈴花を吹き飛ばした。
「ぐぅっ……!」
「ハハハッ! 死ねや」
瞬間移動したダリンが鈴花にトドメを指すべく右腕を振りかぶったその瞬間。
巨大な二匹の龍がそれを邪魔した。
「大した陰陽術じゃねぇか……八重樫 天音。だがな、こいつはもう動けねぇぞ? 俺の全力の呪力放射を食らったんだ。死んでねぇのがおかしぃんだよ」
「ちっ……!」
天音は少しでも役に立とうと大技である"双炎龍撃天照"を使用したのだが、効果はなし。
おまけに鈴花も戦闘不能。
これは詰んだか……?
「まだ終わりじゃないぞー! マッチョなお兄さん! このはと遊ぼ?」
突然現れたのは無防備な姿を晒すこのはだった。
「ダメだ! 離れろこのは!」
「ハッ! ガキのくせに肝の座ったやつだな……いいぜ、遊んでやるが……命はねぇと思え!」
「やめろぉぉぉ!」
全力で飛び込んだダリンの拳はこのはを軽々と殴り飛ば……
さなかった。
「何が起こってやがる!?」
「お兄さんが馬鹿だからだね! このはは強いんだぞ?」
「何者だてめぇ!」
このははただ棒立ちでいるだけなのにダリンの拳は見えない障壁に阻まれた。
ダリンは怒りに任せて何度も拳をぶつけるがびくともしない。
「名乗るよ? 王国騎士団分隊長・神崎 木乃葉……本気で戦お?」
聖なる輝きを纏い、このはは満面の笑みを浮かべた。




