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無能にだって世界は救える!  作者: 結城 夏月
参章 第二次霊大戦
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-思い出す喪失感-

 勝負は文字通り一瞬だった。

 (ながる)は陰陽術の名前を発することなくその場に倒れ伏せ、鈴花(すずか)はその流の首筋に短刀をあてがってる。


「予想以下の実力ですね。《無詠唱》というのだからどれほどの速度で展開すると思えば……所詮はこの程度ということですね。期待はずれです」


 淡々と事実を述べる鈴花。

 流は目を潤ませている。

 当たり前だ。

 そこにあるのは圧倒的な実力差。

 そして、何より優位だと思っていた《無詠唱》も否定されたのだから。


天音(あまね)さん、行きますよ。一応、天音さんに《無詠唱》の手ほどきをしてくれたのは感謝致します。それでは」


 流石の天音も立ち尽くすしか出来なかった。

 月影(つきかげ)を失う前の鈴花はこんな人間ではなかったはずだ。

 やはり、月影の死は大きかった。

 それは天音にだけ影響した訳では無かったのだ。

 むしろ、兄妹である鈴花が一番ショックを受けているはずだ。

 それでも無理をして平然を保っているように見せている。

 そのせいで少しずつ……壊れているのかもしれない。


「天音さん? 何をぼーっとしているのですか? 行きますよ」

「あ、あぁ……すまない」


 天音はなにも言わずに帰るのは癪だと思って流の元へ向かう。


「はよう帰ったらええのに……うちの負けは負けやから」


 地面にペタリと座っている流はニコッと笑顔を浮かべた。

 けれど、それは作り物だと簡単にわかった。

 天音は少し困って考えた結果、流の頭をワシャワシャと撫でた。


「!? な、なにするん!?」

「無理すんなよ……流、お前は強い。ただ、今回は相手が悪かっただけだ」

「!? ……ありがと」


 最後にポンと頭を撫でて天音は鈴花のあとを追ったのだった。






 屋敷へ戻る車内でふと天音は鈴花に聞いた。


「鈴花さんはさ…………師匠のこと尊敬してたの?」

「鈴花でいいですよ。お兄様のことはとても尊敬していました。これ以上無いほど優しい兄だと思っています」

「そっか…………」


 天音はボーッと車窓から流れる風景を眺める。

 今度は鈴花が天音に質問を投げかけた。


「天音さんはお兄様のことをどう思っていましたか?」

「俺は……師匠は最高の人間だと思う。ツンデレだしな」

「ツンデレ? と言うのはよく分かりませんが……お兄様のことをよく思っていてくれて嬉しいです」


 そして、鈴花な一枚の紙を取り出して天音に手渡した。

 紙にはぎりぎり読めるような乱雑な字が並べられている。


「これは……?」

「お兄様が私に残した手紙、遺書のようなものです」

「そんなもん残してたのか……ほんとツンデレだな」


 天音はそう言いながら手紙をめくった。

 書いてあるのは日頃の愚痴ばかり。

 本当に遺書のつもりなのだろうか。

 ただの嫌がらせにも見えてくる。

 しかし、最後は月影らしくしっかりと締めくくってあった。


『強くなれ、天音。お前には素質がある。世界を救うんだろ? そんならもっと強くなんなきゃならねぇからよ。修行、励めよ』


 天音の両目から涙が溢れる。

 意味もわからずこの世界に飛ばされて、何もわからないままだった天音を拾って、修行をつけてくれたのは紛れもなく月影。

 そんな大切な人が失われた事を今更になって強く実感する。

 彼はもう帰ってこないのだ。


「師匠……俺……づよぐなる……!」


 鈴花は泣きじゃくる天音の頭を撫で続けた。

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