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無能にだって世界は救える!  作者: 結城 夏月
弐章 《霊》の侵略
14/33

-決戦・ステージ五-

 セリーと名乗った(ゴースト)天音(あまね)が対峙する。


「ステージ(ファイブ)? 《疾走》だ? 訳がわからねぇ」


 真っ黒なローブで身を包み、フードを深く被っているので顔はよく見えない。

 声色からして男なのは確実なのだが、霊に性別があるかもわからない。

 とにかく、相手がなんだろうと倒さなければ……。


「おっと? まだやるんですか? やめておいたほうがいい。私とあなたでは実力に差がありすぎる」

「まだ俺は本気を出してないぞ!」

「これだから人間は……まったく、諦めが悪い」


 セリーがため息を吐いたその隙を見て呪符を取りだす。


「"我は一陣の風になりて、拒む事は許されず……瞬風"!」


 使い慣れた"瞬風"の呪符の感覚。

 《疾走》というセリーの二つ名に少しひっかがるが、気になんてしていられない。

 右腕にありったけの呪力を込めて突撃。


「"月影流刀術・轢狼(らくろう)"!」


 月影(つきかげ)に習ったのは陰陽術だけではない。

 刀や短刀、手裏剣からクナイまで。

 天音は様々な武器の使い方を教えこまれているのだ。

 刀を左から右へ一凪。

 返す右下からの刃を右上へ。

 止めに上から下へ叩きつけるような斬撃を繰り出す。

 これが轢狼だ。

 "瞬風"の効果もあり、その剣速はとても目では追えない。

 まずは一撃目……!


「せやあああああ!」

「少し期待外れでしたかね……貫け"カースピラー"」

「がっ!」


 その一撃は軽々とセリーの左手で弾かれる。

 そして、接近した天音の腹に右手を当て《魔法》を唱えた。

 グシャッ、と肉を抉る不快な音。

 現れた黒い針が天音を深々く貫いたのだ。


「天音!?」

(ながる)……逃げろって……言っただろ……」

「おやおやぁ……また美味しそうな獲物が来ましたねぇ」


 物陰から突然流が出てきて悲痛な声で叫んだ。

 セリーがそれを逃がす訳もなく、一瞬で流の前に移動した。


「あ……」

「痛くはありませんよ。一瞬ですから」

「やめろおおおおおおお!」


 シュバアアアアアン!

 ダメージを受けたのは……セリーだった。

 見れば、付近には鎧を着た人が大量にいる。

 男の一人、団長のような男が天音に話しかけた。


「陰陽師、ここは我々王国騎士団に任せて逃げろ。大丈夫だ。こいつは我々が狩る」


 王国騎士団。

 それはこの世界が誇る最強の戦力である。

 騎装 (陰陽師でいうところの呪装)を駆使して霊を屠る、選ばれし戦士に与えられる職なのだ。


「少し驚きましたよ……こんなにも早く騎士団の方々が現れるなんて。予想外です」

「まだ、やるというのかね? こちらには潜伏中の陰陽師もいるのだぞ」

「それはそれはっ! けれど……」


 ドプン、と不気味な音が響いたと思った瞬間、黒い沼が現れ、無数の霊が姿を現した。


「ここからが本番です! 彼はこの数を屠りましたが、あなたたちはどうですか?」


 そして、大量の悲鳴が響き渡った。

 これほどの大規模な戦闘は初めてなのだろう。

 逃げ惑う陰陽師や騎士団。

 街は炎に包まれた。


「天音……うちらの街が……」

「わかってる……でも、もう呪力が……」


 今は呪装を保っているのが限界だ。

 これが霊……。

 単体の実力もさながら、数が多すぎる。

 徐々に押され始めている。

 騎士団たちも《騎装》を発現させて応戦するも、犠牲者は増える一方。


「流、お前はそこにいろ……ちょっとがんばってくる」

「ちょっと!? どこいくんや天音!」


 流の静止を無視して飛び出す。

 セリーは俺が狩る……!


「そこを……どけええええええ!!」


 群がる霊を切り裂いて、全力でセリーの元へ。


「見つけたぞ! セリー!」

「おっと、名前を覚えてくれて光栄です。ちょうどこの方の始末が終わったところでして……」


 激しい戦いだったのか、セリーのフードがとれて、銀髪の中性的な顔があらわになっている。

 そのセリーが踏んでいるのは騎士団隊長と思わしき人物。

 騎装を使用したのか、全身を発光する鎧が包んでいるがボロボロだ。


「いいですね、あなた。私を滾らせてくれて。まるで少し前に相手をした陰陽師のようだ! あのときは禁術なんて使われて、危うく消滅するところでしたよ」

「なっ……! お前が月影を! 絶対に殺す!」


 予想外の事実に殺意と復讐心が丸出しになる。

 刀を大きく振りかぶり、必殺の一撃を放つ。


「"月影流刀術・鏡花水月"!」

「なかなか……やりますね」


 高速を通り越し、"瞬風"の加護を得た剣撃は音速に届く。

 セリーはどこからか召喚した細剣で向かい打ってくる。

 だが、遅い。


「ぐぅぅぅっ!」

「ここで死ね!」


 月詠ノ刀が吸い込まれるようにセリーを凪いだ。

 紫色の呪力が溢れる。


「ぐ……よもやただの呪装ではないとは……おみそれ致しました……」

「はぁ……はぁ……"月影流刀術・無影斬月"……!」

「"カースピラー"!」


 お互い、ボロボロの体を無理矢理叩いて技を振るう。

 そして、勝負がついた。


「"月影流刀術・月光"!!!」

「予想以上の……実力でしたね……この私が再生の追いつかないような傷を負うなんて……今回はここで退散させていただきます。次にあった時は……こうはいかねぇから覚悟しときやがれ」


 天音の刀がセリーを貫いた瞬間、セリーはそう言い残して粒子状に拡散した。


「終わった……のか……?」


 呪力が完全に無くなり、呪装が紫色の光となって消える。

 そして、天音は意識を失った。






「大きな被害ですね。街一つだけでなく王国騎士団の隊長まで失うとは……」

「所詮はその程度だという事だ。街の一つや二つ、大した問題ではない」


 薄暗い会議室の中で低い声が響き合う。


「まあ、今回は良しとしましょう。早急に復興をお願いします」

「わかっている」


 二人は会議室から退出した。

 誰もいなくなった会議室に一つの影が現れた。


「ふふ……八重樫(やえがし) 天音か……」


 その影も地面へ消える。

 不気味な笑顔を浮かべながら……






 一枚の紙が会議室に残っていた。

 それにはこう記されている。


『被害報告書

 街の陰陽師・半壊

 王国騎士団・三分の二が壊滅

 以下の陰陽師、または陰陽師見習いを招集

 例の実験の対象とする

 月影流陰陽師 八重樫 天音

 朧月流陰陽師見習い 五十嵐(いがらし)

 以上を報告

 この資料は早急に抹消してください』


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