-決戦・ステージ五-
セリーと名乗った霊と天音が対峙する。
「ステージ五? 《疾走》だ? 訳がわからねぇ」
真っ黒なローブで身を包み、フードを深く被っているので顔はよく見えない。
声色からして男なのは確実なのだが、霊に性別があるかもわからない。
とにかく、相手がなんだろうと倒さなければ……。
「おっと? まだやるんですか? やめておいたほうがいい。私とあなたでは実力に差がありすぎる」
「まだ俺は本気を出してないぞ!」
「これだから人間は……まったく、諦めが悪い」
セリーがため息を吐いたその隙を見て呪符を取りだす。
「"我は一陣の風になりて、拒む事は許されず……瞬風"!」
使い慣れた"瞬風"の呪符の感覚。
《疾走》というセリーの二つ名に少しひっかがるが、気になんてしていられない。
右腕にありったけの呪力を込めて突撃。
「"月影流刀術・轢狼"!」
月影に習ったのは陰陽術だけではない。
刀や短刀、手裏剣からクナイまで。
天音は様々な武器の使い方を教えこまれているのだ。
刀を左から右へ一凪。
返す右下からの刃を右上へ。
止めに上から下へ叩きつけるような斬撃を繰り出す。
これが轢狼だ。
"瞬風"の効果もあり、その剣速はとても目では追えない。
まずは一撃目……!
「せやあああああ!」
「少し期待外れでしたかね……貫け"カースピラー"」
「がっ!」
その一撃は軽々とセリーの左手で弾かれる。
そして、接近した天音の腹に右手を当て《魔法》を唱えた。
グシャッ、と肉を抉る不快な音。
現れた黒い針が天音を深々く貫いたのだ。
「天音!?」
「流……逃げろって……言っただろ……」
「おやおやぁ……また美味しそうな獲物が来ましたねぇ」
物陰から突然流が出てきて悲痛な声で叫んだ。
セリーがそれを逃がす訳もなく、一瞬で流の前に移動した。
「あ……」
「痛くはありませんよ。一瞬ですから」
「やめろおおおおおおお!」
シュバアアアアアン!
ダメージを受けたのは……セリーだった。
見れば、付近には鎧を着た人が大量にいる。
男の一人、団長のような男が天音に話しかけた。
「陰陽師、ここは我々王国騎士団に任せて逃げろ。大丈夫だ。こいつは我々が狩る」
王国騎士団。
それはこの世界が誇る最強の戦力である。
騎装 (陰陽師でいうところの呪装)を駆使して霊を屠る、選ばれし戦士に与えられる職なのだ。
「少し驚きましたよ……こんなにも早く騎士団の方々が現れるなんて。予想外です」
「まだ、やるというのかね? こちらには潜伏中の陰陽師もいるのだぞ」
「それはそれはっ! けれど……」
ドプン、と不気味な音が響いたと思った瞬間、黒い沼が現れ、無数の霊が姿を現した。
「ここからが本番です! 彼はこの数を屠りましたが、あなたたちはどうですか?」
そして、大量の悲鳴が響き渡った。
これほどの大規模な戦闘は初めてなのだろう。
逃げ惑う陰陽師や騎士団。
街は炎に包まれた。
「天音……うちらの街が……」
「わかってる……でも、もう呪力が……」
今は呪装を保っているのが限界だ。
これが霊……。
単体の実力もさながら、数が多すぎる。
徐々に押され始めている。
騎士団たちも《騎装》を発現させて応戦するも、犠牲者は増える一方。
「流、お前はそこにいろ……ちょっとがんばってくる」
「ちょっと!? どこいくんや天音!」
流の静止を無視して飛び出す。
セリーは俺が狩る……!
「そこを……どけええええええ!!」
群がる霊を切り裂いて、全力でセリーの元へ。
「見つけたぞ! セリー!」
「おっと、名前を覚えてくれて光栄です。ちょうどこの方の始末が終わったところでして……」
激しい戦いだったのか、セリーのフードがとれて、銀髪の中性的な顔があらわになっている。
そのセリーが踏んでいるのは騎士団隊長と思わしき人物。
騎装を使用したのか、全身を発光する鎧が包んでいるがボロボロだ。
「いいですね、あなた。私を滾らせてくれて。まるで少し前に相手をした陰陽師のようだ! あのときは禁術なんて使われて、危うく消滅するところでしたよ」
「なっ……! お前が月影を! 絶対に殺す!」
予想外の事実に殺意と復讐心が丸出しになる。
刀を大きく振りかぶり、必殺の一撃を放つ。
「"月影流刀術・鏡花水月"!」
「なかなか……やりますね」
高速を通り越し、"瞬風"の加護を得た剣撃は音速に届く。
セリーはどこからか召喚した細剣で向かい打ってくる。
だが、遅い。
「ぐぅぅぅっ!」
「ここで死ね!」
月詠ノ刀が吸い込まれるようにセリーを凪いだ。
紫色の呪力が溢れる。
「ぐ……よもやただの呪装ではないとは……おみそれ致しました……」
「はぁ……はぁ……"月影流刀術・無影斬月"……!」
「"カースピラー"!」
お互い、ボロボロの体を無理矢理叩いて技を振るう。
そして、勝負がついた。
「"月影流刀術・月光"!!!」
「予想以上の……実力でしたね……この私が再生の追いつかないような傷を負うなんて……今回はここで退散させていただきます。次にあった時は……こうはいかねぇから覚悟しときやがれ」
天音の刀がセリーを貫いた瞬間、セリーはそう言い残して粒子状に拡散した。
「終わった……のか……?」
呪力が完全に無くなり、呪装が紫色の光となって消える。
そして、天音は意識を失った。
「大きな被害ですね。街一つだけでなく王国騎士団の隊長まで失うとは……」
「所詮はその程度だという事だ。街の一つや二つ、大した問題ではない」
薄暗い会議室の中で低い声が響き合う。
「まあ、今回は良しとしましょう。早急に復興をお願いします」
「わかっている」
二人は会議室から退出した。
誰もいなくなった会議室に一つの影が現れた。
「ふふ……八重樫 天音か……」
その影も地面へ消える。
不気味な笑顔を浮かべながら……
一枚の紙が会議室に残っていた。
それにはこう記されている。
『被害報告書
街の陰陽師・半壊
王国騎士団・三分の二が壊滅
以下の陰陽師、または陰陽師見習いを招集
例の実験の対象とする
月影流陰陽師 八重樫 天音
朧月流陰陽師見習い 五十嵐 流
以上を報告
この資料は早急に抹消してください』




