表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能にだって世界は救える!  作者: 結城 夏月
弐章 《霊》の侵略
11/33

-残された期待-

 目を覚ましたのは真っ白な部屋の真っ白なベッドの上だった。

 痛みは特に無い。

 だが、右腕には少し違和感があるように感じる。


「目が覚めたかい? 天音くん」


 現れたのは白衣を身にまとった月影と同年代に見える男だった。

 そして、男は短めに切りそろえた髪をかき揚げ、かけていた眼鏡の位置を正して言った。


「右腕に違和感があるだろうけど、あまり気にしないでいい。少し弄らせてもらっただけだからね」

「物騒なこと言うな……いじるってなんだよ」

「言葉のとおりだよ。普通にくっつけるだけじゃ治らなかったし、つまらないと思ってね」


 訳が分からない。

 この男は一体何を言っているんだ。

 天音は自分の右腕に巻かれている包帯を強引に引きちぎって腕を見た。


「おまっ……人類やめる一歩手前じゃねぇかよ!」

「ははは、気に入ってくれたようでなによりだよ」


 そう、天音の右腕は黒色の金属で出来ていた。

 本当に訳が分からない。

 どうしようと考えたらこんなことになるのやら……


「この変態医者が……」

「よく言われるよ。そうだ、まだ名乗ってなかったね。僕は東雲(しののめ)直智(なおとも)。見ての通り医者をしてるよ」

「マッドサイエンティストか……!」

「まっ……? よくわからない言葉だけど、気持ちよくは聞こえないな」

「ぺっ!」

「うおっと! 汚いじゃないか」

「どうでもいいから説明しろよ。これの」


 そう言って天音は金属化した右腕をコンコンと叩いてみせた。

 直智は興味を示してもらえたのが余程嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべる。


「その腕はねぇ……《ロストストーン》って呼ばれている宝石でできてるんだ」

「ロストストーン? イタイ名前だな」

「それを言われると僕も滅入るよ。これには特別な力があってね……」


 曰く、ロストストーンは古代に失われたはずの宝石の一つであるという。

 曰く、ロストストーンに呪力を注ぐことにより莫大な力を得ることが出来るという。

 曰く、ロストストーンには世界を変える力があるという。

 とにかく凄いものらしい。

 その分、希少価値も高いわけで……


「君の腕一つで一億トルもかかったんだよ。まったく、あのバカは何考えてんだか」


 トルとはこの世界での円のことだ。

 一億ということは……考えるだけで頭が痛くなるのでやめておこう。


「あのバカ……って?」

「そんなの決まってるじゃないか。月影の事だよ。月影、本名は空鈴(そらすず)って言うんだけど、僕と彼は昔から仲が良かったんだよ。それこそ、空鈴が陰陽師になってからだけどね」


 空鈴……

 直智は自分の知らない月影のことを知っている。

 これにはとても興味がある。

 昔の事も、そして……どうなったかも。


「空鈴が死んだ事を君が気に病む必要はない。これは空鈴が決めたことなんだ。君は彼の期待に応えられるよう生きていけばいい」

「師匠の……期待?」

「なんだ、気づいてなかったのか? 空鈴は随分と君にご執心のようだったよ。念話で話す時もいつも君と妹の鈴花ちゃんのことばかりだ。少し妬いてしまうな」

「師匠…………」

「天音くん。君は強くなるんだ。一人で何体もの霊を屠れるほどに」

「それが…………それが師匠の期待なのか?」

「それは君が考えることだ。それでは、僕は他の患者を見ないといけないから、この辺で。また機会があったら話そう」

「あぁ……」


 東雲直智……実に不思議な人物だった。

 そんなことより、師匠の期待に応えるならこんな所でグズグズしてる場合ではない。

 もっと修行して、もっと強くなって、師匠の期待に応える。

 そして…………この世界から霊を消し去って救ってみせる。


「俺の物語はまだ始まったばかりなんだ……見ていてくれ、師匠。俺、きっと強くなってみせるよ!」


 天音の決意が大空に響く。

 アッチにいる月影がほんの少し微笑んだような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ