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無能にだって世界は救える!  作者: 結城 夏月
弐章 《霊》の侵略
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-月影対天音-

 

「せやああああああ!!」


 ガガガガガッ、と刀同士のぶつかりあいのテンポが上がる。

 いける……まだまだ上がる!

 もっと上げてこいよ……師匠!




 予想以上だ。

 俺がテンポを上げれば上げるほど天音も速くなる。

 ほんの少し前までは刀の扱い方すら知らなかった人間の実力じゃない。

 我ながら、とんでもないやつを弟子にとったらしい。

 だが、師匠としてこんな所で弟子に負ける訳にはいかない。


「滅球展開! "冥府乱撃"!」




 ドスドスドスッと月影の呪装"滅球"が天音の体を容赦なく痛めつける。


「カハ……ッ!」


 俺としたことが師匠との打ち合いで滅球の存在を完全に忘れていた。

 おかげで骨は五本以上折れたようだ。

 想像以上の痛みに体が立ち上がることを拒否する。

 流石は月影の呪装。

 天音はまだ自分の呪装の性能をいまいち理解できていない。

 この勝負、すこし天音には重いかもしれない。


「ぐぅ……ああああ!」


 痛みに喘ぎながら刀を地面に突き立てて立ち上がる。

 腰から呪符を一枚取り出して詠唱。


「"天の恵みよ。我を癒せ……光恵"」

「そろそろ諦めたらどうだ?」

「へっ……馬鹿言え!」


 ぎゃふんと言わせるまで倒れてたまるか。

 "光恵"のおかげで傷は癒えた。

 呪装というのはただの武器なのだろうか。

 答えはきっと否だ。

 試しに刀に呪力を注いでやる。

 みなぎる力を刀に流すイメージ。

 すると、黒色の刀身に紫に輝くラインが幾筋も流れた。


「なんだかライトセ○バーみたいだな……」


 試しに刀を一凪してみるとその方向に紫色の斬撃の衝撃波が放たれた。


「これは使えるっ!」

「おもしれぇ……きやがれ!」

「はあああ!」


 縦、横、斜めとできるだけ多く、広い範囲に衝撃波を放つ。

 狙うのは月影。

 ではなく呪装の滅球。

 そして、バコオオオン!と大きな音が鳴り、滅球の五つが破壊される。

 計画通り……!


「お前もまだまだだな……"変魔陰陽術・斬"! 切り刻め! 滅球!」

「なっ! 変形だと……!?」


 月影の《呪符無し》の陰陽術が発動。

 残る四つの滅球が刀身のような形を取り、高速で回転し始めたのだ。


「くそ……一対五じゃねぇか!」

「対処してみせろ……!」


 ヒュン、と風を切る音が響き、四方向から必殺の刃が天音を襲う。

 刀と衝撃波を駆使してなんとか乗り切った。


「これで……どうだあああああ!」

「ちっ!」


 刀を強く握って体を素早く一回転し衝撃波の円を描く。

 それは残る全ての滅球を破壊し、一時の安寧を生み出した。

 吹き出るように出る汗が目や傷口に染みて痛むが気にしていられるか。

 攻撃の嵐が止み、ホッと安心してしまう。


 だが、それが命取りだった。


 気づけばグサッ、と刃が肉にくい込むような音が《自分の体の中》から響いた。


「ゲホッ……ぐあああああああ!」

「言っただろう。殺す気で来いってな……お前は油断しすぎだ。甘すぎる。それは敗北を生むぞ」


 まさか本当に刺されるとは……

 あえて外したのだろう。

 貫かれたのは右胸だ。

 肺に大穴が空いているのは確信できた。

 うまく呼吸ができなくなり、大量の血液を吐血する。


「ぐはっ……てめぇ……げほっがはっ……限度ってもんを知れよ……ぐほっ」

「師匠になんて口聞いてやがる。そうだな……お前に教訓として教えてやるよ。痛みを持ってな」

「何を……っ!? うわあああああああ!」


 ヒィン、と滑らかに振られた月影の短刀はその速度を落とすこと無く天音の右腕を斬り落とした。

 ブシャッ、と血が吹き出て天音の足元を血が覆い始める。


「じゃあな、天音。次会うときはアッチでな……」

「やめろ……やめろ! 頼むから……げほっ……行かないでくれ!」

「…………」

「がはっ……! 俺はどうなってもいいから! 師匠が助かるならそれでいいから! 頼むから……もう俺の目の前からいなくならない……で…………」


 くれ、と言葉は続かなかった。

 出血が多すぎたのか、朦朧としていた意識が途切れてしまったのだ。

 師匠……嫌だ……嫌だ……嫌だ……




「すまねぇな……お前は俺より強くなれる。それこそ、禁術なんて使わずに霊を屠れるくらいにな……」


 月影は空を見上げた。

 残り一週間というのは嘘だ。

 実際は後一時間と残っていないだろう。

 最後は誰にも看取られずに……静かに消えよう。

 腕、斬り落として悪かったな。まだまだ教えることがあったのにな……天音。

 お前には俺のオススメの医者を紹介しておいたから助かるはずだ。

 最後まで一緒にいてやらなくてごめんな……鈴花。

 兄として不本意だが、きっとこの馬鹿弟子がお前を守ってくれる。

 俺は天音に教えられる全ての陰陽術を教えた。

 あいつはそれを全て短期間で習得したのだ。

 まだまだ強くなると期待していた。


「俺は……どうしようもない兄貴だな、鈴花。どうしようもない師匠だな、天音。非力な俺を許してくれ、師匠、みんな。俺は……」


 誰にも気づかれない秘密の場所。

 "天滅"のせいで壊れてしまったがここでいいだろう。

 終わりのない夢を見よう……みんなが幸せに暮らすといいが……


『それでよかったのか? 月影よ』


 懐かしい声だ。


「いいんだ、師匠。 俺はやり遂げたと思ってるよ」

『ふんっ。よくガキが言いおるわい』

「いいじゃねぇかべつに……」

『随分変わったのぅ……では、共に二人を見届けようか』

「そう……だな……」


 ズキン、と心臓を握られるような凄まじい痛みが月影を襲う。

 やっとお迎えか……

 遠くにずっと昔に死んだ両親が見えた。

 ニコニコと笑いながら手を振っているように見える。

 そして、今までの過去。


「これが……走馬灯ってやつか……案外、悪いもんじゃねぇ……」


 月影の意識は闇に墜ちる。

 深い深い闇の中に……


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