第2話
相変わらず笑っていやがるこの少女。なんなんでしょうか?
あれからもう何度も呼び掛けているのに返事がない。こうなるとかなり俺も傷ついてくる。
しかしこういうときこそやはり相手との対話は大事だと思う。
俺の尊敬するじいちゃんが「人とわかりあうためには、話すしかない」って言ってた。いやまあ、それ以外に方法あるのかって感じだけど。
とりあえず期待はできないがもう一度呼びかけてみることにする。
「あのー、いい加減返事してくれませんかね?」
…………、返答なし! いやぁ、くまったくまった。
「いいんですか?」
唐突に彼女――――ヴィエルジュは透き通るような声でそう返事した。
あまりの突然さに驚いてしまった。っていうかなぜ今まで返事しなかった。
言いたい文句は色々あるがまずは服装だ。これは俺にとって死活問題なのだから。
「えっと……それはあれだよね。服の話だよね?」
「それ以外になにかあるんですか?」
「ないです」
「そうでしょう。じゃあ余計なこといちいち言わないでください。よろしくて?」
「イ、イエス」
お分かりいただけたであろうか? このヴィエルジュという少女、おそらく性格的にSである。しかしそんなことは気にしてられない。話を先に進めよう
「いいんですかっていうのは、つまり……?」
「着替えていいんですか?ってことです」
「え? あるんですか? 専用の服みたいなの?」
「ありますよ。あなたのなる‘勇者’にぴったりのものが……」
マジですか! きっとないのだろうと思ってた。あるならなぜよこさないんだ。
気持ちが昂るのがわかる。それを着れば俺も‘勇者’になれるのだ。胸の鼓動が収まらない。ついに、ついに勇者に……。
「ぜひそれを着させてくれ! もっとはやく言ってくれればよかったものを……お前やっぱりSなんだなあ!
「いや、たしかに私がSなのは否定しませんけど、服を渡さなかったのは私なりの配慮というか……」
ヴィエルジュの声がだんだん小さくなる。
いったいどうしたのだろうか? 配慮? そんなものが必要なのだろうか?
「よくわかんないけどその服着たらダメージ軽減みたいな感じのもあるんでしょ? はやくくれよ!」
「えぇ……、まあ本人がいいならいいか。私も着てるとこ見たくないことはないし」
そうヴィエルジュは独り言のようにつぶやくとポケットからペンを取り出し魔方陣を床に書き始めた。
なんでも勇者の装備はすべて魂が存在するものらしい。そのため、だれかがその装備を使用するためには使用者がその装備と正式な契約をする。これを‘魂装契約’といい、契約は使用者が死ぬまで解除されないらしい。俺の手にある剣と盾もその契約で手に入れたものだ。
また、契約には‘素質’がいるらしく俺にはそれが常人の十倍以上備わっているらしいのだ。全く、ヴィエルジュも見る目があるなとつくづく思う。
‘魂装契約’をするにはその契約を仲介、つまり装備の魂が存在する場所と現世を繋ぐ役らしく契約には不可欠な存在らしい。
まあこれらのことはほんの二時間前くらいにヴィエルジュからなんとなく聞いたもので、正直言ってそこまで詳しいわけでもなく、興味があるわけでもない。俺は勇者になれればいいのだ。
「ふう、終わりました」
どうやら魔方陣が書き終わったらしい。
「三度目ですがもう一度確認しておきます。契約を行うと装備とは死ぬまで契約解除できません。契約すれば戦闘服の場合、戦うとき必ずでてきます? それでもいいでか?」
「わかってる。大丈夫だ」
魔方陣の中心へと入り、そして正座する。目をつむり瞑想する。
これから俺は‘勇者’になるんだ。17年間お世話になってきたこの街を守るために。
敵を颯爽と倒し、ドヤ顔をきめる自分の顔が頭の中で妄想として広がっていく。あぁ、いいねぇ。
「何を考えているか知りませんが、とりあえず気持ち悪いです」
ヴィエルジュは相変わらず毒舌である。
目を開けて目の前に立つ彼女を見据える。
「はじめてくれ」
「わかりました」
ヴィエルジュはそういいながら頷くと、しゃがみ込んで右手を魔方陣に触れ、詠唱を開始した。
詠唱を聞くのは三度目だがやはり目の二回と同じく聞いたことのない言葉だった。
というか、よく考えたらこいつはいったい何者なんだろうか?
俺の前に唐突に表れ「あなたのは‘勇者’素質があります。この町を救ってみませんか?」言いだし、半信半疑で彼女の説明を受け、なんとなく承諾し、一回目の契約を俺の部屋で行って剣を手に入れた。
よくよく考えたら怪しい奴である。
そういや、よくじいちゃんに「お前は人を信じすぎる」って言われたっけ。
そんなことを考えているうちに詠唱は進んだようだ。その証拠に魔方陣も赤く光りだしなんとも詠唱のクライマックス感を演出している。
そして……
「終わりました」
ヴィエルジュがそうつぶやいた。
「そうか」
俺はわざと目をつむりながら立ち上がった。理由は簡単、やはり自分の新たな姿は鏡の前で拝みたいのである。
ヴィエルジュもそんな俺の思いを理解してか「鏡の前まで誘導します」と俺の手を引いてくれた。
「鏡の前です。お好きな時に目を開け……て……」
ヴィエルジュのしゃべり方が普段と違うような気がする。なんだか笑いをこらえている感じだ。しかし、今どこにそんな笑う要素があるのだろうか? 俺の勇者戦闘服初披露だというのに何かおかしいのだろうか?
「よし! あけるぞ」
独り言のようにそう呟き、俺はゆっくりと目を開けた。
「は?」
そこに映っていたのは、ふんどし姿の俺だった。
一瞬の沈黙の後、横でヴィエルジュが吹き出す音が部屋中に虚しく響いた。
二話です。
書き溜めとか全くないのでかけたらうpという感じですのでご了承ください。