声
パシャパシャパシャ…
足が地に着くたびに水しぶきが上がる。
走っている最中に、次第とマキナの目は暗闇に慣れてきていた。
周りを見回すとこの巨大な道は岩や瓦礫、また大小様々な廃棄物で覆っていることがわかる。
ここはかなり広大な道となっており、横から横を見通すことは出来ないが、
どうやらこの道に沿って川が流れていることが感じ取れる。
ここが一体どこなのか見当つかないが、とにかく声のするほうへ進む。
薄っすらと、だが確実に聞こえてくる声がどんどん近づいていることがわかった。
そして、最初に聞いた声以外にもざわざわと様々な声が聞こえるようになってきた。
「この先に多くの人がいるのか?」
それ自体はマキナにとって良いことであったが、それと同時に一つの疑問が浮かび上がる。
「…声は聞こえるのに、それ以外の音が全く聞こえない…」
水しぶきの音や、自分の吐息、バックの中身が擦れる音などを耳にすることは出来なかった。
この耳の調子だと、両方の耳の鼓膜は破れているはず。なぜ声だけが…
意識を一瞬そちらに向けていたマキナは足元の注意が疎かになる。
「うっ!」
なにか石のようなものに足を引っかけ、マキナは前方に転ぶ。
受け身を取り、すぐに立ち上がり、足を引っかけたものに目をやる。
「なんだ…これは…!」
そこには人間から頭を取ったものが転がっていた。
辺りにはかなり血は広まっており、頭が無くなってから時間が経っていることがわかった。
そして、マキナは服装に着目する。
「これは、印…。しかもヘイト団の…」
するとすぐ近くでまた声が聞こえた。
くっそがぁぁぁ!!
その声、確かに聞き覚えがある。
そう、それはブロンドの声だった。
マキナはすぐにその声のする方へまた、走り出す。
すぐ奥には一人の男が武器を振るって、何かと戦闘を行っている様子が見て取れた。
マキナはその男のすぐそばに寄り、声をかける。
「ブロンド!」
「マ、マキナか!無事だったんだな!怪我は大丈夫か?」
ブロンドは自分がボロボロになりつつも、マキナのケガの心配をした。
その言葉には純粋な優しさが籠っており、ブロンドに対するマキナの印象は少し変わる。
一瞬ではあったがこの言葉に心打たれ少し言葉を詰まらした。
「そ、そんなことより、こいつは…もしかして…」
「ああ。変異種だ。しかもかなり厄介な野郎だ。対人間用に特化したような変異をしてやがる」
「対…人間用…」
マキナとブロンドの前に立つ何かは変異種であった。
ヒト型で大きさは3mほど。体長に似合わず、その体つきは細身であった。
腕が左右の肩から二本ずつ生えており、それぞれが細く、かなり長い形をしている。
しかもそれぞれの腕の先が刃物のようになっており、そこには多くの血肉が染みついていた。
頭はくちばしのように尖っており、それ自体もかなり殺傷能力が高そうであった。
「こいつの子供みてぇな小さいのは一緒にいたヘイト団で奴らで片づけたが、
こいつが出てきてからはまるで地獄だ。ほとんど皆、殺されたよ。
お前もこいつに片腕持ってかれて、危なかったから戦線から離脱させた。
そういや、お前を担いでいった二人組の男は一緒じゃないのか?」
「いや、分からない。起きたら私一人だったから」
「そうか。良くここがわかったな。…っ!来るぞ!!」
変異種はそのくちばしを開け、上を向いて叫んだ。
四本のうでも上向きになり、力を蓄えているようにも見えた。
どうやら戦闘態勢を取ったようだ。
ブロンドもその剣の形をした武器を両手で持ち、前に出し、頭の少し上で
それを構える。足は肩幅まで広げ、がに股を取り、体を少し沈め、静かに力を貯める。
身体のパラメータを上げ、全体的に強化させるスタイルであり、
それは武力で戦闘を勝利に導く戦士が取る一つの戦闘態勢であった。
マキナもナイフを外に大きく構え、体を地面に平行させ、極力低い体勢を取った。
そして一つ大きなため息をつき体を柔らかくさせた。ムリな動きを無理やり行えるようにさせ、
機敏な動きを実現させるためであった。この戦闘態勢は、体全体の力を抜き、リラックスさせつつ、
毎秒毎秒でそれぞれの体の部位に極限の力を使わせ、最高のパフォーマンスを行うための
戦闘態勢であって、かなりの負担をかけるものであり、
それは一瞬の戦闘で勝利をつかみ取るアサシンが取る一つの戦闘態勢であった。
そしてブロンドが全身を力ませ、身体を最大限に強化し、膨張させ、その姿を強靭なものさせた。
「ガァァ!!行くぞォ!!マキナァ゛!!お前らの仇、今つかみ取る!!」
「ああ…勝手に腕を盗まれてた事だ。十分な理由だろう。………死をもって私に詫びろ!」
二人は勢いよく飛び出し、変異種に戦闘を挑む。




