蒼空とコーヒー
とある港町のカフェ。
店内はアンティークな家具が静かに佇んでいて、柔らかな明かりがそこ此処を照らす。
店の扉の鐘がカランと鳴る。
それと同時に私の心も高鳴る。
私はコーヒーを飲みながらチラリと君の姿を見る。
綺麗に切りそろえられた黒髪、赤い腕時計、紺色のリュック。
この間やっとのことで連絡先を交換した。だが、まだ話すことは出来ないでいる。
どうやって話しかけよう─────そう悩んでいた時だった。
「マスター、相席いいですか?」
君のよく通る声に思わず顔を上げると、私の向かい側に君がストッと座る。
「....こっ、こんにちは」
あまりの驚きで挨拶する声が裏返る。
「こんにちは、よく会うね....お、それ何のコーヒー?」
「あ、グアテマラ、ですよ」
上手く声が出ず、最後は蚊の鳴くようになってしまう。声が小さめなのに加えて口下手なのでついついどもってしまう。
「敬語じゃなくていいのに、同い年なんだから」
「そうだね....あ、蒼くんは今日部活なかったの?」
「うん、高1の時は部活いっぱい有ったんだけど最近は少ないかな」
そう言えば、なんの部活なんだろう?そう聞くと、
「ああ、軽音部だよ。ベース弾いてる、月原さんは?部活入ってる?」
初めて名前を呼んでくれた。そのことが嬉しくて笑顔がほころぶ。そうして会話をしばらく続けていると、
カチャリ
静かにマスターが君───蒼くんの前にコーヒーカップを置き、音を立てずにポットに入ったコーヒーを注ぐ。
「いい匂い...」
「だよね、僕も好きなんだ」
『好き』という言葉を聞いただけなのに鼓動が早くなる。苦しくなる。
帰る方向が途中まで同じなのでカフェを出て並んで歩く。
空がうっすらと青からオレンジへ変わっていた。
見上げていると隣からパシャッという音が聞こえた。横を向くと蒼くんがカメラで空を撮っていた。
「空、綺麗だね」
「うん...ねぇ、月原さん」
何?と聞こうとして横を向いた瞬間、そっと君の腕が私の体を包む。
「好き、です。あなたが」
「....ありがとう、わ、私もです」
恥ずかしさに勢いを任せ返事をすると、君は私の耳元で
「よかった」
と囁いた。コーヒーの香りがした。
今までずっと苦いと思っていた恋がほんの少し甘く感じた。
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