駄作から学ぶクソ展開回避術【あなたに批判力はありますか?】
突然ですが、僕はアニメ観賞が趣味の一つで、手当たり次第に録画しています。しかしせっかく録画しても中々時間が取れず、未視聴アニメが大量に溜まっていく訳です。でも最近は何とか時間を作り(主に小説の執筆時間を削り)、それらを消化する日々を送っていました。
アニメって素晴らしいですね。人生の清涼剤です。心が癒されたり、ときめいたり、ぴょんぴょんしたりします。アニメ好きで良かったと思う瞬間です。
それが自分にとって良作であれば。
……そう、問題は駄作の方です。駄作に出会ってしまった時のがっかり感ときたら、もう何とも言えないものがあります。
何を以て駄作とするかは十人十色なので、そもそも何か一つを抽出して「これが駄作である」と決めつけることはできません。取り分けこういう場で。
が、個人的に「え、なにこれ」と思ってしまうアニメも結構あるのが実情です。
僕はアニメ制作の大変さを味わったことはないし、絵が描ける人間でもないので、作画とか声優さんの演技とかそういうことをとやかく言うつもりはありません。あまりに酷いのは別ですけど。
でも代わりに小説を書いたりする人間なので、物語の展開や構成、キャラの言動に関しては多少うるさい見方をしています。
つまり僕が言う駄作とは、ストーリー展開や設定のおかしさが目立ち、かつ擁護できる部分が極端に少ない作品のことを指します。
でもアニメって、オリジナルアニメ以外は原作となる漫画や小説やゲームが存在し、それを元に試行錯誤して作ってるものがほとんどだと思うんです。
その上で駄作なら、もう原作がある程度の駄作なんじゃないかと勘繰ってしまいます。わざわざ原作を買って駄作かどうか確かめたりはしませんけど、そういうこともあるのかなと。
もちろんこれは暴論です。
時間とか予算とか尺とかやる気の問題でしぶしぶ妥協せざるを得ない部分もあって、アニメはイマイチだけど原作は面白いよというパターンもあるでしょう。が、それはひとまず置いておいて。
そこでふと思いました。
駄アニメにありがちなクソ展開は、小説にも当てはまるのではないか。
クソ展開をあえて小説として書くことで、クソ展開の傾向が掴めるのではないか。
そうすれば少なくとも自分がクソ展開を書いてしまう危険性を減らせるのではないか、と。
で、考えてみたのが以下の話です。
まずは主人公に設定を用意させてください。
『女嫌い』──女を見ただけで吐き気を催すほど。
『チョコレートが大好き』──チョコさえあれば他には何もいらないと思っている。
この二つの設定を作っておきます。
ではどうぞ。
† † †
俺の名前は今市豊作。何の特徴も取り柄もない、ごく普通の高校二年生だ。
今日は日曜日。趣味の女装を楽しむための必須アイテム、ガーターベルトを買いにショッピングモールまでやって来た。
「くそ、分かっていたことだが右も左も女ばっかりだ。吐き気がするぜ」
これじゃ落ち着いて買い物ができん。目を瞑って歩くとするか。
──どんっ!
「きゃっ!」
「イテェ!」
誰だ、この俺にぶつかってきたバカは。
「ご、ごめんなさい。探し物をしていて前を見てませんでした」
「気をつけろバカ女。で、探し物ってなんだ?」
「えっと……口では説明しづらいのですが、命の次に大切なものです」
「命の次にだと? よし分かった、俺も探すのを手伝ってやる」
「そんな、ご迷惑ではありませんか?」
「気にするな。俺が手伝いたいから手伝うんだ」
「ありがとうございます!」
──十二時間後。
「み、見つけましたー!」
「おお、おめでとう! で、結局何を探してたんだ?」
「輪ゴムです!」
「何だと? そんなものがなぜ命の次に大切なんだよ」
「知りません」
「はぁ? まぁいいや。で、その輪ゴムを使って何をするんだ?」
「別に何も。ただ探していただけです」
な、何だこの女は……おちょくってるのか?
「よくも俺にこんなくだらないことを手伝わせやがったな! 貴重な日曜日の十二時間を返しやがれ!」
「ご、ごめんなさい。時間は返せないけどお礼はします。はい、チョコレート」
「いらねーよ、こんなモン!」
あぁ、時間を無駄にしたぜ。これだから女は嫌いだ。
「まぁいいや。夜遅いから家まで送るよ」
「あ、ありがとうございます……(キュン)」
† † †
とりあえずここまで。
自分で書いておきながら、ツッコミどころの多さに辟易してしまいます。
さて、駄アニメの特徴をがっちり掴んだ会心のクソ作品が書けたと思いますが、どうでしょうか? さすがにここまでのクソは滅多にないでしょうけど、あえて大袈裟な書き方をするとこんな感じかと。
以前これと似たような企画をやった時は、どこがどのようにおかしいのか答え合わせまで書いたのですが、今回はやめにしておきます。皆さんがご自身で考え、問題点を発見してください。
皆さんに見ていただきたいのはストーリー展開なので、「冒頭から自己紹介はまずい」とか「地の文と台詞のバランスが悪い」とか「情景描写などが全くない」などといった文章的なツッコミは問題発見力に関わらないものとします。
本当は『良作に学ぶ良作の書き方』を考察した方が建設的でいいかなと思ったのですが、良作の傾向をまとめた例文なんて僕ごときには書けませんでした。
最後に。
他人の作品(アニメや小説に限らず)を批判するには、相応の技量が必要です。
制作側の意図をしっかりと汲み取った上で、適切な言葉を選び、正当な批判をしなければ相手や周囲を不快にさせるだけでなく、自分が恥を掻くことになります。残念ながら、的確な批判さえ届かない場合もあります。
でも、批判は常にするべきだと思います。声に出さなくても、心の中で自分に問い掛けるだけでいいんです。作品の悪いところを見つけ、それを悪いと感じた理由、改善案まで明確にする。上に行くには、前に進むには、それはきっと大事なことです。
ただ、決して揚げ足取りにはならないでください。
無理に欠点を探して他者を貶める行為は、自らの無知を晒すことと同じです。
批判とは、問題点を突くことでもなければ捏造することでもありません。正されるべきことを見つけて論ずることです。
あなたに批判力はありますか?
多角的にものを見る広い視野、思考力、柔軟性、一貫性、客観性、謙虚さ、豪胆さ、冷静さ。知識の貯蔵量と、知らないことを調べる力。それらを磨き、眼識を養ってください。
批判力を身につけることで、作品の悪い部分が見えてきます。他人の作品だけでなく、自分の作品の欠点すら見えてきます。無理に探さなくても自ずと見えてくるのです。それと同時に改善案や代替案も見えてくると思います。
それはあなたにとって、決して良いことばかりをもたらすものではないでしょう。ですが、きっとあらゆる場面で役立つ力になるはずです。