ともに過ごしたきょうだいへ
こんにちは。ずいぶん熱心に読んでいますが、お探しの物はありましたか? ああ、ちょっと試しに立ち読みしていただけなんですね。気に入ったら買って行かれるのも良いかと思いますよ。
え、探していたのは私を含めたシリーズだったって? 見つけたにしては残念そうな表情をしてらっしゃいますが……いえ、言わなくとも何となくわかりますよ。私だけぽつんと売られていて、欲しい巻がなかったんでしょう。残念ながら、前3巻分は一昨日女性の方が買っていきました。それよりもっと前の日に、後ろ5巻ほど男性の方がまとめ買いしていきまして。それで、巻が飛んで私だけ残っているという訳なんです。
まあなんと言いますか、今回は運がなかったんですね。中古の漫画というのは、そういう物です。ああ、そんなに悲しそうな顔をしないでくださいな。私だって、取り残されて寂しく思っているところなんですから。
私は、10巻分の同じシリーズの仲間とともにここに売られました。売ったのは漫画の好きな若い方でして、漫画を増やしすぎて泣く泣く売ったという状況でした。私のシリーズは全部そろってませんで、つまり集めていたけれど途中で買うのをやめたという感じだったんです。全巻そろっていないからこそ、売られてしまったというのが正しいでしょうね。
先ほども言いましたとおり、きょうだい達は他の方に買われていきました。きょうだいといっても、全く同じ印刷所で生まれたとは限りませんし、同じ時期に売られたという訳でもありません。ですが、同じ本棚でずっと隣り合って過ごしてきましたから、同じようなものです。
買われたときは、すでにそろっていたきょうだい達に出会い、他のシリーズの漫画の方も優しくいろいろ教えてくださいました。主人に読まれたり、そうでないときは本棚から部屋を眺めたりして、時を過ごしたものです。きょうだい達がちょっとずつ増えていくと、嬉しかった記憶があります。本の扱いが丁寧な人でしたから、特に不満もなく収まっていました。
そんな風に時を過ごしたきょうだい達ですから、離ればなれになってしまったのがとても悲しいです。こうなってしまったら、もう出逢える可能性はかなり低いでしょうね。
ああ、買われていったきょうだいは今、幸せなんでしょうか。とても雑に本を散らかすような人で、破れたりしていないでしょうか。日に当たって色あせていないでしょうか。ここにいると、そんなことばかり考えてしまいます。
いっそきょうだい全部買ってくれれば良かったのにと、そう思うこともあります。ですが、買うあなた方にも色々事情があるんですよね。集めた巻の状況とか、どのくらい一緒にまとめ買い出来るのかとか、そういうことを考えて買っていかれるというのは、わかってはいるんですが。
すみません、私ばかり話し込んでしまいましたね。それもほとんど愚痴で……。
え? 私を買っていかれるので? 嬉しいですが、あなたは他の巻を探していたのでは? ……なるほど、あとの巻も欲しかったけど、私だけ買っていかれると。そうでしたか。もう一度きょうだい達に会える見込みはなさそうですが、新しいきょうだいに会えるのを、楽しみにしましょうか。
というわけで、『中古ショップの漫画』でした。
中古の漫画って、ときどき巻が飛んで売られていることがあるな、と思ってたら浮かんでしまいました。売る法はたぶんまとめて売ることの方が多いと思うので、こういう経緯があるんじゃないかな、と。