生まれた意味は死ぬことと見つけたり
初めまして。そして、さようなら。もう二度と会うことはないでしょう。
…………なんですか、その怪訝な顔は。開始一行で話を終わらせないでくれって? わざわざ僕の話を聞きたいだなんて、よほどの変態ですね。だって僕を取ったと言うことは、もう僕の役目は無くなったも同然なんですよ。あなただって早速そのボールペンを使いたいんでしょう? なら、そのペン先を保護する僕ら『樹脂玉』の役目は終わりました。とっととゴミ箱にでも捨ててください。
はあ、わかりました。どうしても話を成立させたいんですね。冥土に行く前に、ちょっとだけ話をしていきましょう。
といっても、話すことなんて思いつかないんですけどね。僕らは人に使ってもらうために生まれたのではなくて、他の道具が使われるまで大事な部分を守るために生まれた訳ですから。僕の場合はボールペンのペン先を保護するため。買われて手元に来たらお役御免。そこからあとはゴミ箱に直行。そういう運命ですよ。
どうせならキャップとして使ってもらえばいいって? 無理無理、僕らには力不足。そもそも繰り返し保護することを考えて作られた訳じゃないんですよ? だってほら、僕らは小さすぎるじゃないですか。机に置いておいたらあっという間になくなってしまうのがオチ。キャップ式のやつらほど、丈夫に作られている訳でもありませんしね。
だから、まあ、僕らの仕事は、運搬中と店頭に並べられているときだけです。
与えられた仕事に誇りがあるかって聞かれると、正直微妙なところです。大事なペン先保護ってのはまあいいんですけどね、特別何かしてる訳じゃないもので。体は張ってますが、それだけです。ペン先に張り付いて、衝撃が来ても乾燥に晒されても耐えるだけ。それにどうせ、買う人にとっては使う前に外さなきゃならない邪魔なゴミでしかないでしょう? 立派な仕事だと豪語したって、守ったボールペンが喜ばれたって、誰にも感謝されなければ虚しいだけです。
もちろん、僕ら樹脂玉に限ったことじゃないんですけどね。例えばあなたがさっき破り捨てた、CDケースの周りのフィルム。もちろんCDを使うためにはフィルムを破らないといけませんが、それ以上使うことは不可能な代物です。二度目以降、出し入れするなんて面倒な造りをしているでしょう? だから、捨てる。わかりきったことです。
この世の中、そういった物が増えたような気がします。スマフォとかいうのの画面を保護しているやつとか、それに張る保護フィルムを保護する殊勝な奴もいますよねえ。あとは電化製品の周りの発泡スチロールとか、カバンや靴の形を整えるために詰められている紙の塊とか。挙げたらキリがないです。
僕の体は小さいからまだいいですけれど、発泡スチロールやら紙の塊となるとかさばってますます邪魔っ気ですよねえ。捨てるのにも煩わしく思われるのに、彼らはそれでも誇りを持ってそこにいるんですかね。想像したくないです。
ああ、思ったより話し込んでしまいました。さ、僕に構わずボールペンを使ってやってください。せめてもの情けをかけてくれるというのなら、そのボールペンを最後まで使うことです。それではさようなら。もう相まみえる日は来ないでしょう。
ということで、ボールペンのペン先を保護する『樹脂玉』の話でした。
だんだん着眼点がおかしくなってる気しかしないです。
個人的には樹脂玉を眺めるの好きです。綺麗な色の物もありますし。
……だからこんな話を書いちゃうんですがね