風は熱く、されど涼しく
こんにちは。九月も半ばにましたが、まだ暑いですね。今日も僕の力がいるのでしょう? どうぞ、スイッチを付けてください。風を起こしてあげますよ。僕は扇風機で、そのために生まれたのですから。
どうです? 涼しくなりましたか? ……そうですか、それは良かったです。ええ、いいんですよ。あなたが涼しく過ごせるのは。僕自身はちっとも涼しくありませんがね。むしろ、働くほど暑くなるんです。
だって、僕ら扇風機は、部屋の温度を下げられる訳じゃないんですよ。でも風は涼しいじゃないかって? そうですね、部屋の温度は下げられませんけれども、空気の層は吹き飛ばすことができますから。なんでも、人間の体の周りに体温くらいの空気の層ができてしまうらしくて、それを吹き飛ばせるから涼しく感じるんだそうです。風の温度が低いんじゃないですよ。だって僕らは、部屋の空気をそのまま使うだけですから。
その点、エアコンさんはすごいですよね。だって、本当に温度を下げることができちゃうんですよ? エアコンさんが動いている間は、僕も涼しくて嬉しいです。生まれ持った物が違いますよね。羨ましいです。ああでも、エアコンさんは体が半分外に出ているんでした。それはそれで、大変なんでしょうね。
そういえば、最近はあまりエアコンを付けませんね。なるほど、付けるほど暑い日が減ったからですか。もうじき秋になるんですね。ああ、時が経つのは早いなあ。僕もそのうち、押し入れに戻っちゃうんだなあ……。
いえ、これからが忙しいんですね。エアコンさんに頼るほどでなくとも、僕がいないと暑いと。そういうことならめいっぱい頑張ります。本格的に秋の涼しさが部屋に入ってくるそのときまで、しっかり仕事に励みますとも。
ああ、それにしても、もう夏は終わってしまうんですね。秋はなんだか寂しい気がします。あの青い木の葉が黄色に変わって減っていくからでしょうか。それとも、夏休みにやってくる子供達が、学校に戻ってしまうからでしょうか。
子供達と言えば、どんなことでも遊ぶのが大好きですね。僕と顔をつきあわせて、「あーー」とか「我々は宇宙人だ」とか言うじゃないですか。あれ、いったい何ですか? ――なるほど、風に向かって喋ると声が震えるのが面白いから、そんなことするんですね。確かに、いつもと声が違って聞こえたような気がします。
おや、どうしました。そんなに僕をじっと見つめて。子供達じゃあるまいし、楽しくないでしょう。え、埃ですか。確かにこびりついてますね。僕は部屋の空気を動かしてるから、舞う埃も一緒に吸い寄せちゃうんですよね。しばらくすると、今みたいに汚れてしまうんですよ。
もしかして、掃除してくれるんですか? 嬉しいなあ。そろそろ気持ち悪くなってきたところなんですよ。少々手間ですが、あなたのためにもなりますよ。綺麗な方が、より風を送れますから。
それじゃあ僕の電源を消して。そしたら、真ん中を回せば外せます。ふふ、楽しみだなあ。ようやく綺麗にしてもらえるんだ。もちろん、わかってますよ。掃除が終わったら、今まで以上に頑張って回りますから。
そろそろ秋に近づいてきたと言うことで、「扇風機」でした。
何か書こうかなと思ったらちょうど目に飛び込んできたんです。