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儚くとけるいのち

 こんにちは。こんなところまで、よくぞおいでくださいました。寒いでしょう、冷たいでしょう。ここは貴方にとっては過酷な環境でしょうね。でも私たち氷にとっては、冷凍庫が安息の場所なのでございます。

 ここにいらっしゃったと言うことは、私たちの力を借りたいということですね。いいでしょう。そばに小袋とスプーンがありますから、すくってお好きなだけ入れちゃってください。はいそうです、そのままドザーっと……あ、もうご存じでしたか。それはとんだお節介をしました。


 ふう、ぎゅうぎゅう詰めはやっぱり苦しいですね。いえ、いいんです。これが私たちの仕事ですから。このために皆、水から形をもって生まれてきたんです。ですから、精一杯お仕事しますね。

 それじゃ、レジ袋の中にお邪魔します。さて先客は――魚のようですね。はい、なるほど、アジですか。今が旬ですし、いいですね。とすると、今夜は焼き魚ですか? ふふ、美味しく焼き上げてくださいね。それにしても何匹かいるようですが――お子さんに? ははあ、なるほど。今が食べ盛りの子どもさんなんですね。いやはや、お疲れ様です。

 スーパーの外、暑くなりましたねえ……。私たちにはつらい季節になってきました。でもこういう暑いときこそ、皆様は私たちの力を必要とするんですよね。それはわかってます。だから、愚痴は言わないつもりです。誠心誠意、汗水垂らしてご奉仕いたします。ご安心ください。

 あっ、大丈夫ですよ。汗と言っても溶けたときに出てきた水ですから。あれ、そうこう言っている間に何だか世界が大きくなったようですね。袋の中がまるで海のようになってきましたし……。いえ、これは世界が大きくなったのではなく、私が溶けて小さくなっているから、ですね。水も増えてきましたし、仲間も小さくなっていくようです。

 私、なくなってしまうんですね。少なくとも、氷として形ある姿ではいられなくなってしまうんでしょう。この体が全て水になってしまったら、私は皆と混ざってしまうのでしょうか。……そういうこと、考えてしまうと怖いですね。

 すみません、こんなこと言ってしまって。つい怖くなってしまいました。この先、私はどうなるんですかね。もし生まれた場所があのスーパーの中でなくて、飲食店の飲み物に入れられたのでしたら、きっとあなた方のお腹の中に入っていたことでしょう。嫌だとか、そういうんじゃないんです。私たちはいずれ溶けてしまう身。飲み物を冷やした後に食べられてしまうと言うのも一つの人生――いえ、氷生なんでしょう。働いて立派な殉職とも言えますね。

 でも、私たちは食べないでくださいね。いえ怖いとかそういう意味ではなく、貴方のためを思ってです。あんなところに置かれていて、私たち自身やスプーンを、誰が触っているかわかりませんからね。ひょっとしたら、悪い病原菌が私たちの体に付いているかもしれません。ええ、お体のためにも、どうぞおやめください。


 ああ、もう家に着いたのですか。なかなか立派なおうちにお住まいなんですね。素晴らしいです。玄関からして立派な作りです。ああ、お子さんもずいぶんと立派な……。なるほど、男の子ばかり。これは夕飯も腕を振るわないといけませんね。美味しいアジの焼き魚、作ってあげてください。

 ふう、そろそろ私の役目も終わりのようですね。もうずいぶんと小さくなってしまいましたし、仲間の姿ももう見えません。心なしか、意識も危うくなってきた気がします。これが氷として生まれてきた私の運命(さだめ)なのですね。まだ少し怖いですが、受け入れましょう。

 私はこれから、水道に流されるのですか? なるほど、もはや氷ではなく水として、旅をする訳なんですね。大丈夫です。もう、覚悟はできました。ここまでお話を聞いてくださってありがとうございます。またいつか、別の場所で、別の形で会えるかもしれませんね。ちょっと楽しみです。それでは、さようなら。

 学食バイトでマグロやらキャベツやらを冷やす時に氷を使っているんですが、その氷を入れ替えている最中にふと「氷の物語が書けるかも?」と思ってしまいました。そこからイメージを膨らませて、今回書いたという訳です。

しかしカウンターの中の氷じゃあピンとこない人も多いかと思いまして、スーパーにある冷やす用の氷にしてみました。


 ……相変わらず何を書いているんでしょうね私は!

しかしまあ、それでも楽しんでいただけたのなら、嬉しいです

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