表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

体張ってます

 はあ、ようやく仕事が終わった。あー、今日も体が痛いわ。おや、失礼。見苦しいところを見せてしまったようだねえ。

 あたしかい? あたしはねえ、この家の庭にある、物干し竿さ。ほら、今もピン、と体を伸ばして横に架かっているだろう? それがあたしだよ。今し方洗濯物の取り込みが終わって、もう何も掛かっちゃいないけどね。


 あんた、今時間あるかい? なら聞いておくれよ。

 いやね、物干し竿ってのは洗濯物を干しておくところだろう? あたしゃそれに不満がある訳じゃないいだけどねえ、やっぱり大変なのさ。ほら、洗濯って事は、服は濡れている訳だよ。水を吸った服ってのが重くってねえ…。ただでさえ5人分あるのに、もう体がびきびきいくかと思っちゃうよ。



 あ、そうそう、この家はどうも5人家族みたいでね。夫婦と3人の子供が居るのさ。この子供ももういくらか大きくてねえ。一番下も中学生だったかな?

 ほら中学生ってのはあれだよ。大人とそこまで服の大きさが変わらなかったりする訳だよ。赤ん坊の頃は可愛い服だったんだけどねえ、どんどんたくましくなっちゃって。ほら、服が大きいって事はその分水も吸ってるんだよ。赤ん坊だった頃に比べたら重いのなんのって! でもまあ、仕方ないことさね。子供ってのは大きくなるのが仕事だよ。私らのように成長しない道具と違ってね。



 愚痴ばかりになってしまったね。しかしこの仕事は大変なんだよ。太陽が照りつけてくるのが恨めしくってね、いっそ雨でも降って欲しいもんだ。雨だったら洗濯物を干さなくて済むじゃないか。そりゃ、濡れるのも嫌だけどね、たまには肉体労働から解放される日があったっていいじゃないか。人間だってそうだろう? うん、道具だって働きづめは大変なのさ。

 え? そんなに雨がいいなら、梅雨時は最高じゃないかって? 馬鹿言わないでおくれよ。梅雨時ってあんた、晴れの日が少ないんだよ? つまり、晴れ間にドーンと洗濯物が干されるわけさ。分かるかい? 普段の2倍以上の仕事量だよ。そんなことなら毎日こつこつ干される方がマシだね。

 そこも人間だって同じだろう? 仕事をさぼったら後でツケが回ってくるじゃないか。それと一緒さね。きびきび働いて適度に休む。これこそ最高の人生――いや、私の場合は竿生だけどね、そういうことなんだよ。

 さっきはあんなこと言ったけど、実際は梅雨時は家族達は洗濯物を乾かすに困って、有料の乾燥機のあるところまで出掛けているみたいだよ。普段からそこへ行ってくれればこっちも楽なんだけどねえ。


 いや、これは言っちゃあいけないね。あたしは今の仕事が気に入ってるし、何より洗濯物を干されなくなったらあたしはただのさびた棒に成り下がっちまうよ。道具ってのは使われてこそ存在意義があるってもんだからね。壊れるのはいやだけど、使えるのに使われなくなってしまったら悲しいよ。だからあたしは、愚痴を言いたいけれどこうやって仕事に励んでいるんだ。


 いやほんと、立派な心がけだろう?

今回の主役『物干し竿』でした

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ