少女に揺られて
あ、君君。どこ向いてるのさ、君のことに決まっているじゃないか。…僕がどこに居るか分からないって? はあ、しかたないなあ、もう……
今ちょっとした空き地で、小さな子供達が休んでいるだろう? その中に三つ編みで赤いリュックサックをしょった女の子が見えるはずだよ。え? 違う違う。僕はその女の子じゃないって。僕は女の子の背負ったリュックサックについている、可愛らしいクマのキーホルダーだよ。柔らかいプラスチックでできた、プニプニの体が僕の自慢さ。
なに? 人間でない“物”が喋るのはおかしいって? まあいいじゃないか、固いことはさ。
僕はね、外に出るの久しぶりなんだよ。昨日の夕方まで、ずーっとカバンと一緒に押し入れの中だったからね。でも今日、持ち主の女の子が遠足に行くことになったから、こうして外に出られたってわけさ。
いやあ、やっぱり外の空気は美味しいねえ。押し入れの中なんて、埃っぽいから参っちゃったよ。ああ、空は青いなあ。風も気持ちいいや。真っ暗な押し入れとは大違いだ。あ、鳥さんだ。おーい、空を飛ぶってどんな気持ちなんだい?
ああ、話が逸れたね。なんたって久しぶりの外だからね、ついつい浮かれちゃったんだよ。女の子も今日の遠足を楽しみにしてたみたいなんだけど、僕だってとっても楽しみにしていたんだから。
いや、昨日の女の子の喜びようはすごかったねえ。はしゃぎにはしゃいじゃってさ、家中ぴょんぴょん跳ね回ってたんだから。そのとき準備のためにリュックは部屋に出ていたから、その様子はばっちり見ていたよ。もちろん押し入れの中にいても聞こえてきそうなほどの騒ぎだったけど、女の子の嬉しそうな顔を見たら僕までとっても楽しみになっちゃった。この子ったら、楽しみにしすぎて夜眠れないーって、親に寝かしつけてもらってたんだよ。
ふふ、でも子供だからね、はしゃぎすぎたのかその後あっという間に眠ってしまったんだ。おかげで今日は元気いっぱいみたいだ。
リュックのキーホルダーやってるとね、何より持ち主と同じところに行けるのが楽しいね。今日はどこかの大きな公園まで歩いて行くって話だよ。
大きな公園って、何だろう? 僕はまだ行ったことないや。ひょっとして、とんでもなく大きな滑り台やシーソーがおいてあるのかなあ? 早く見てみたいなあ。
といっても、楽しいことばかりじゃないんだ。今は休憩中だからこうやってリュックも地面に座っているんだけど、歩き出したらすごいよ。ぴょんぴょん揺れて、体がリュックにぶつけられるんだから。
幸い僕は柔らかい素材で作られているからね、それくらいじゃ傷はつかない。でも、ぶつかったら痛いだろう? 特に、リュックサックを支えるワイヤーの入ったところにぶつかったときは最悪だねえ。あそこが一番固くて痛いんだよ。他のところは布地だからまだいいんだけどさ。
それにグルグル揺れるもんだから、気持ち悪いのなんのって。僕が人間みたいにものを食べてたら、きっと吐いてたところだよ。ああ、ごめん。こんな話は下品だったね。反省するよ。
あ、そろそろ出発するみたいだ。じゃあね、今日は聞いてくれてありがとう。僕はこれでもう行くよ。…え? 大丈夫だよ。揺れるのは大変だけど、お出かけは大好きなんだ。気持ち悪いのだって我慢するさ。
どうもこんにちは。初めましての人は初めまして。風白狼と言います。何となく思い立って、こんな小説を書いてしまいました。
今回の主役は『リュックサックのクマのキーホルダー』です。なぜこいつなのか自分でも分かりません。が、今後もこんな感じで身近だけど微妙な立ち位置の道具達が登場するゆるーい作品になると思いますので、お暇なときにでもおつきあいくださいませ。
また、道具達に共感してくださったらお気軽に感想など残してくださる幸いです。