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「シーナ!これほしい!」
城下町に行ったエリシアは、それはもうはしゃぎまくった。
あれはなに?
これは?
かわいい!
ほしい!
おいしそう!
途中で、あれ?この子病気じゃなかったっけ?と何度も思った。
それを感じさせないくらい彼女は騒いで、その顔は幸せそうだ。
今回エリシアが指さしたのは銀のしおり。
色の銀ではなく、材料が銀のしおりだ。
それには丁寧な装飾が施されており、上品な感じになっている。
右下には猫のシルエットがあり、猫の目の部分には緑色の小粒の宝石がはめられている。
「エリシアと同じ目の色ね。私が買ってあげる。お姉さん、これください」
女性の店員さんにお金を渡して商品を受け取ると、それをエリシアに渡す。
彼女は今まで食べ物を買ってもそれ以外は買わなかった。
持って帰ると家族や侍女に怪しまれるからだ。
だが、このくらいなら構わないだろう。
「あ、ありがとう…!」
エリシアはうっとりとしおりを見つめる。
買ってあげて良かった、と思っていると、ふとエリシアが眉根を寄せる。
「エリシア、大丈夫?」
急にしゃがみ込んだ彼女が心配で、背中に手を当てる。
そして、彼女の体が熱くなっている事と、魔力が漏れ出ている事に気がついた。
まさか、クリエッタ病の発作?
「…っ…!…げほっ」
吐血。
エリシアの顔は真っ青で、それとは対照的に口にあてた彼女の手は真っ赤で。
本当は、この依頼は受けるべきではなかったのではないかと、凄く後悔した。
焦った私はエリシアを連れて急いで家に転移。
机の上に置いたままにしていた透明な液体の入ったビンを掴み、エリシアに渡した。
「エリシア!これ飲んで!」
言った瞬間、エリシアはビンをひったくるように奪い、口に流しこんだ。
口から零れた液体が、血と混ざりピンク色になって顎をつたう。
「う、ぁあ、あ゛あ゛あ゛あぁぁああ゛!!!」
彼女の喉がゴクリと鳴った途端、叫びだしたエリシアから膨大な魔力が溢れだした。
チートな私でも冷や汗を垂らして近づく事さえできないくらい大量な、濃い魔力。
多分、これはエリシアが今まで受け止めきれなかった神竜の涙の魔力だ。
先程エリシアに飲ませたのはコリの果汁を聖水で薄めたクリエッタ病の薬。
今まで体内に溜めていた魔力が、薬のせいで一気に流れているのだ。
エリシアは今10歳。
10年分の魔力が一気に解放された彼女には激しい痛みがくる。
子どもが耐えれるような痛みはないはずだ。
でも、私には見守る事しかできない。
自分の無力さを感じた。
急にエリシアの悲鳴が止まった。
そのまま気絶した彼女を、私は慌てて駆け寄って支えた。
何時の間にか魔法が解けて金髪に戻ったエリシアの髪が、さらりと私の腕を滑った。