閑話 過去の話
またまたアイリス視点の閑話です。
今回は椎奈とアイリスの出会いのお話です。
シーナは不思議な子だ。
彼女の経営する『サクラ』は本屋でもあり情報屋でもある。
私は本が苦手なのでそれは買わないが、情報屋はよく利用する。
『サクラ』は全く外れない情報屋として裏ではとても有名だ。
私がシーナと出会ったのは今から約3年前。
依頼でとある森に住みついた邪竜を退治しに行ったときの事だった。
今までに倒した事のある邪竜は上級魔法光魔法を放てば1発で倒せたので、今回もそれで大丈夫だと思っていた。
だが、その邪竜は他のものとは桁外れに強く、私が今まで戦ってきたのは邪竜の中でも下位のものにすぎないと気づいた。
どうやら私は自分は強さを自惚れていたらしい。
魔力切れで体が重くなり、どうしようかと悩んでいた頃、唐突に視界が光った。
そして鼓膜が破れるほどの爆音がなる。
同時に、反射的に目を瞑っていたため見えなかったが、微かに邪竜の苦しげな咆哮が聞こえた気がした。
音が鳴り止んで、恐る恐る目を開けると信じられない光景が瞳に映った。
先程まで私が苦戦していた邪竜がいた場所には、その跡形もない巨大な黒い炭の塊があった。
一瞬、思考が停止する。
「あ、大丈夫?」
視界の端にひょっこりと顔を出した少女が、私の顔を覗きこむ。
艶やかな黒髪に宝石のように輝く黒眼。
整った顔だちをして、どこか神秘的な雰囲気を出す美少女がそこにいた。
まさか、こんな少女が、邪竜を殺した?
「これは…あなたがやったの?」
「うん、勝手に参加しちゃってごめんね。倒してよかった?」
「いや…助かったけど」
信じられない。
見たところこの子はエルフでも魔族でもなさそうだし、多分…人間だ。
人間のまだ10代前半くらいの子が邪竜、しかも中級以上の強さのそれに普通勝てるか?
答えは否、ありえない。
「怪我してるね」
そう言った途端に私の体が光り、傷が治っていく。
この子はあんな強力な魔法を使った後に、まだ魔法が使えるのか?
しかも無詠唱で?
「あなたは誰?」
「私は田宮…じゃなくて、シーナ・ターミャ。あなたは?」
「…アイリス・キュート」
この時の私は、まさかシーナが無二の親友になろうとは思っていなかった。