閑話 1-アイリスの視点
第1話のアイリス視点のお話です。
「シーナいる?」
私は扉が壊れるんじゃないかという勢いで店内に入った。
ミシリと音がしたので少し心配になったが、今はそんなことはどうでもいい。
『サクラ』の中にはシーナともう1人、
私の学友でこの国の皇太子でもあるレディオン・リンド・フルノ・レキルスがいた。
レディオンは驚いたように此方を見たが、シーナは安心したように私に話しかける。
っていうか何でレディオンは乙女みたいに頬を染めてんの?
「いらっしゃいませ、アイリス。今回はどんなものをお探しで?」
部屋にシーナの鈴のような声が響く。
レディオンは放置するらしい。
「ん?レオンはいいの?まぁいいや、この本の修理を頼める?」
渡したのはここを利用するときに使っている『護身術の全て』。
この本しか持っていないから仕方がないが。
「分かりました。少々お待ちください」
シーナは気のせいかニヤリと笑って2冊の本を持って店の奥に入った。
今回シーナに頼んだのはローズ・テファ・メルシスについての情報だ。
孤児院の院長から聞いたことだが、彼女は私の母親だという。
なんでも切羽詰まった顔でまだ生まれたばかりの私を預けに来たらしい。
「アイリスって本読むのか?」
隣に立つレディオンが聞いてくる。
あぁ、ここではレオンだっけ?
レディオンは彼女が情報屋である事を知らないので、皇太子だとバレている事も知らないのだ。
…こいつシーナの事好きなくせに何にも知らないな。
「友人に頼まれたんだよ」
「アイリスにそんな事頼む友人なんていたんだな」
「どういう意味」
「いや、別に」
レディオンの物言いに、少しイラっとする。
「ハッキリ言えよな」
「いいだろ、別に」
「そんなんだからシーナに振り向いて貰えないんだよ」
「な…っ!」
何故知っている、っていう顔をしている。
いや、バレバレだから。
見ている方が焦れったく、こちらとしては早々に彼らにはくっついてもらいたいのだが。
…そういえばシーナはこいつの事をどう思っているんだろう。
今度聞いてみるか。
ガチャ
レディオンが何か言いかけたとき、シーナが戻ってきた。
一瞬でレディオンの事を忘れ、シーナの方を見る。
手にある先程私が渡した本には、きっと情報が書かれた紙が挟まっている。
私の親の事が書かれた、紙が。
「シーナ…見せてもらってもいい?」
「どうぞ」
本を受け取ってめくる私の手は、情けない事に震えている。
そのページには、いろいろな事が書かれていた。
ローズ・テファ・メルシスの実家、家族、性格から駆け落ちした事、夫が殺されて子供をキュート孤児院に預けた事。
そしてーーー1番最後に書かれている事を見て、泣きそうになった。
彼女は今も自分の子どもを探している。
貴方は望まれた子ですよ。
「…相変わらず、仕事が早くて…助かるよ」
シーナは知っていたのだろう。
私がその事を気にしていたのを。
孤児院にいる子は望まれない子が多いから。
「次はお二人できてくださいね」
そう言ったシーナの声に、私は勿論と思いながら返事をした。