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『壊れた本を直してほしい』
それは私に情報屋としての仕事をしてほしい、という意味。
本の33ページ目に欲しい情報とお金を挟んで私に渡す。
私はそれを受け取り、そのお金に対応する情報を書き本の22ページ目にそれを挟み、客に渡す。
それが情報屋『サクラ』の利用方法である。
私はアイリスから受け取った本を開いた。
左下に33と記されているページには、ルール通りに紙と紙幣があった。
今回の依頼内容は『ローズ・テファ・メルシスについて』。
ついにここまできたかぁ、と思う。
ローズ・テファ・メルシスというのはアイリスの生き別れの母親の事。
彼女の母親は隣国の侯爵家の末娘で平民の男と恋をしてアイリスができ駆け落ちをした。
しかし彼女の父親がそれを許さず、男を殺して末娘を連れて帰ったのだ。
母親は父親が来る事に気づき、父が来る前にアイリスを孤児院に預けたのだ。
この事は神製の情報本で知ったのだが、多分彼女は孤児院の院長から聞いたのだろう。
取り出した紙に、もうここ3年で使い慣れた羽とインクを使って情報を書く。
本来なら個人情報、ましてや貴族の料金は高いのだが、アイリスは私の友人なのでサービスでいくつか情報を付け加えて、本に挟んだ。
店の方に出るとアイリスとレオンがなにかを喋っていたがすぐに止まり、アイリスは少し緊張した顔でこちらに顔を向ける。
あ、レオンの事を忘れていた。
「シーナ…見せてもらってもいい?」
「どうぞ」
本を渡す。
その表紙には『護身術の全て』と題名が書かれており、毎回この本を持ってくるのが彼女らしい。
受け取った本をパラリとめくり、22ページ目を開く。
アイリスは内容を読み進めていき…泣きそうな顔になった。
「…相変わらず、仕事が早くて…助かるよ」
少し涙声になりながらアイリスは告げた。
そして、パタリと本を閉じて出入り口に向かう。
「ご利用ありがとうございます。次はお二人できてくださいね」
頭を下げた。
すると、アイリスは吃驚したように目を開いて、その後笑いながら言った。
「分かった、ありがと。…がんばれよ」
ん、何を?と思いながらも店を出て行ったアイリスを見送った。
また、店内に沈黙。
残されたのは私とレオン。
案の定、彼は一連の出来事の意味が分からず頭にハテナマークを浮かべてこちらを見ていた。
私はそれに曖昧に笑う。
「本、買っていきますか?」
そう言って、桃色の恋愛小説を取り出した。
最後に、その日『サクラ』でノイズの新作が一冊売れた事と、後日銀の杖を持った魔法使いがもう1人女性を連れて来店した事をここに言っておく。