5-6
「ファナ様、どういう事ですか?」
「何がだ?」
いまだに私を掴んだままのファナ様に尋ねた。
連れてこられた場所窓から見える景色と室内の豪華さからして王城の一室だろう。
そして、視線を少しずらすと寝台の布団の一部は膨らんでおり、そこから金糸が微かに覗いていた。
移動する直前のファナ様の言葉からして、ここはエリシアの新しい寝室だと予測した。
だが、今はそれを気にするところではない。
「黒猫」
小さい声で言ったが、彼女には聞こえているであろう。
下から顔を見上げると黄土色の瞳と目が合った。
「……」
数秒間見つめあう、と、ふと彼女の口角がニヤリと持ち上がる。
そして、パッと私を掴む手を離したかと思うとツカツカとエリシアの方に向かって歩いていく。
寝台の横に立つと左手で眠る少女の額を撫でながら、まるで何事もなかったかのようにこちらを向いた。
「どうした?魔法をかけにきたのだろう?」
ーー聞くな、と言う事か。
「…そうでしたね」
まぁ、いいか、いずれ分かるときが来るだろう。
そう思いながらエリシアの元へ歩く。
関係ないが、先程ファナ様が急に私を持ち上げていた手を離したために尻もちをついてしまい、何気にお尻が痛い。
まぁ、気にするほどでもないのだが…。
「この子には悪い事をしてしまった」
ファナ様と反対側の寝台の隣に立ち、エリシアの目を隠すように左手を置く。
「何故、この子の生誕祝いにシェルの涙など贈ってしまったのだろうな」
そこを通してエリシアの脳に魔力を送り、あの日の事を口に出せぬように魔法をかけた。
これで、彼女は私と脱走した日の事を誰かに伝える事はできないだろう。
「人は愚かだ。人などシェルの涙に込められている力さえ受け取る器などないというのに、それを飲ませるなど……」
エリシアから手を離し、目の前のファナ様を見る。
その表情は後悔という感情でいっぱいだった。
彼女達は神であるが故にか責任感が強い節があるのだ。
「私は、ファナ様達は悪くないと思います」
そんな顔を見ていられなくて思わず言った言葉。
言った後、これは少し馴れ馴れしいかとは思ったが、本心なので撤回はしない事にした。
彼女はそれに対して苦しげに、自嘲するな笑みをうかべただけだった。
私はもう何も言うことができず、その後挨拶をしてから、まるで何かから逃げるように家に
帰った。