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急に現れた地神様に驚いて一瞬固まっていた私とレディオン殿下だが、我に返った殿下が勢いよくその場に跪いた。
それを見て私も同じようにする。
チラリと見えたファナ様の眉が顰められたような気がした。
「『聖地』ではあまり騒がないほうがいい、会話が私達に筒抜けだ」
優雅に歩きながら告げる。
その声も世界を支える者として相応しい凛としたものだった。
「顔を上げろ」
頭上からきこえた聞こえたそれに従い彼女の方を見る。
殿下も恐る恐る視線をファナ様に向けた。
逆光で余計にその神々しさを増したファナ様は、彼女を見慣れた同性の私でもクラリとくるほど美しかった。
隣の方もそう思ったのだろう、すぐに戻ったが少しの間だけ間抜けに口を開いたまま彼女に見惚れていた。
何故だかちょっとだけ、イラッとした。
「金をもつ地の王子、お前がここで争うとはどういう事だ」
冷たく言い放つ一言に、殿下の体が強張る。
申し訳ありません、と頭を下げながら言った言葉も若干だが震えている。
それもそのはず、『聖地』とは遥か昔に神が降り立った神聖な場所。
だから神の眷族の血を引くとされる三国の王族しか入れない。
その三国、レキルス、セレイア、メデインは《地の王家》と呼ばれ、地神様……つまり目の前に立つファナ様の血を引いている。
いわば親のようなもので、彼女の意思一つでその国を滅ぼす事も栄えさす事もできる。
だから印象を悪くすることはイコール国の滅亡を意味するのだ。
ちなみに《空の王家》は引きこもり種族である竜族のキーブレア国の王家。
大空を司る神竜様、シェルディエトキャリシアーテユフェナベルナ(シェル)様の血を引いている。
《海の王家》は伝説ともいわれる人魚国イグリィタ。
流れている血は大海を司る海神様、デュラセラリードクリアーテフェナベルナ(デュラ)様だ。
彼女達などの世界を支える神々たちは皆、銀の色を持っている。
例えばファナ様やシェル様、デュラ様は銀の髪。
その配下の風、火、水などを司る者たちは銀の瞳。
この世界を創った創造神であるフェナベルナ(ベル)様にいたっては髪や目だけではなく服装までも全身銀色である。
その血を引く証として、人は金の色をもつようになったのだ。
殿下やエリシアの金髪がそうである。
なので5国の王族は皆、金色をもっており、すぐに見分けがつく。
ちなみに殿下が城下に遊びに行くときはきちんとフードを被り、魔法具で髪色を少し変えているのでうまく紛れ込んでいる。
私は瞳に簡単な魔法なら見破る事ができる魔法をかけているために、彼の髪はいつも地毛の金色にしか見えないわけだが。