5-3
結界が張られている=外に出られない、と考えていたが、この結界はどうやら神の血さえ流れていれば出入り可能らしい。
私が入る事ができるのは異世界人だからだろうか。
本当なら今すぐにでもここを去ってエリシアに口止め魔法をかけて早めに城内から出たいのだが、絶対に私が今ねじ伏せている人は開放したら私を拘束しにかかるだろう。
皇太子の体を地面に押し付けておいて何のお咎めもなしとか、ありえない。
結界の解除は止めたが、途中まで進めたために前よりも脆いものになってしまった。
今は時間がないから今度直しにくる事にしよう。
とりあえず、今の現状を乗り切るにはどうすればいいのかを考える。
そして出てきた問題点があった。
先ほど殿下が言った事によると、ここでは血が流れないらしい。
嘘を言っている、という可能性もない事はないが今回は信じたとして思考すると、不思議な点が出てくる。
血が流れないのに、どうして先ほど首を切ろうとしたのか。
まず考えたのは、首は離れるけど血は血管から出てこない。
うまく説明できないが、血管が離れた時点で血が管内で止まるというか…とにかく流れない。
次に切ったら首をすり抜ける、もしくは跳ね返るが、痛みは感じる。
その場合は痛みがそのまま出てくるのか、それとも少しセーブされて表れるのかが疑問となる。
とりあえず、掴んでいる殿下の右手首に力をいれてみる。
「っ…!?」
何かに耐えるような声が聞こえてきた。
どうやら痛みは感じるらしい。
結構顔を歪めてるので、そこまで痛かったのかと少し反省して力を緩めると、殿下がその隙を狙って無理矢理手を振りほどいた。
「……っ!」
バランスを崩しかけたがなんとか踏ん張り体勢を立て直し腰に手を伸ばして短剣を取ろうとしたが、視界の端にある人物が見えたためにそれを止める。
私の動きを止めようとしていた殿下も、その不自然な行動に疑問を持ったのかそちらを向く。
「なっ…地神様!?」
私達の前に現れたのは今にも地面につきそうなほど長い輝く銀髪を揺らしながら、落ち着いた黄土色の瞳でこちらを見据える美女。
滑らかで手触りのよさそうな布を幾重にも纏って歩いてくるその姿はまさしく女神だった。
彼女こそ、私がお世話になっている、そして皆が敬うべき存在である神の眷属の1人、大地を司る地神様ファナルトキュアメリノングラスフェナベルナ(略してファナ)様でした。