5-2
そんな事を思っている間に、私を殺すために剣が少し引かれるのを感じた。
そのまま首を切り離すらしい事が動きでわかった。
さすがにそれはごめん被るので、素早く短剣で攻撃を無理矢理に弾いて距離をとる。
もちろんその間も結界の解読を実行している。
なんとか平和的に終わらないかと考えを巡らせるが、一考に思いつかない。
怪しいものじゃありません、と言ってもこんな格好している時点で怪しいだろう。
それに、もしそんな人が王城に入ったら絶対に王、もしくは皇太子であるレディオンには伝わる筈だ。
一歩後ずさったとき相手が剣を構えながら突っ込んで来たので短剣で流しながら横に避ける。
そして、すれ違うときに足を引っ掛けると、レディオン殿下は転けるまではいかないが少しバランスを崩した。
その隙をついて地面にねじ伏せる。
下から車に轢かれたヒキガエルみたいに(聞いた事ないけど)苦しげな声が聞こえた。
その体制のまま数十秒。
あと少しで結界が解除できる。
それにしてもここ人通り少ないな、王道展開で通りがかりのメイドさんが悲鳴をあげたりはしないのかな?
それに私が言うのもなんだけど、レディオン殿下も少しは抵抗したり叫んで助けを呼んだりしないと本当に殺されるかもしれないのに。
何も変わらず沈黙のまま時間が経っていると、急にレディオン殿下が口を開いた。
「貴様、何をしている?」
答えたいけど喋ったら正体がバレそうなので答えない。
殿下も私が答えないと薄々分かっていたのだろうが、また話しだした。
「言っておくがこの結界の解除は不可能だぞ。はるか昔に神がかけたといわれる結界だ。術式を見る事さえできぬだろう」
「え?」
思わず声を出してしまった。
ベル様がかけた結界?
っていうか私、普通に術式見えたどころか解除しようとしてたんだけど。
「まさか知らないのか?ここは神の血をひく三大国の王族しか入れぬ『聖地』の一つだ。血を流す事もできぬから人も殺せぬ。だからここで私を殺す事も不可能だぞ」
……『聖地』?
なんで聖地が、こんな少し豪華だけど王宮ではどこにでもありそうな場所になっているんだろう。
あともう少しで結界解除が完成するところだったよ。
そして何気に殿下は「自分を殺す事はできないから早く諦めろ」って訴えてるね、その台詞は。
それに別に殺すつもりなんかないのに。
知り合いが死ぬのも、それでエリシアやアイリスが悲しむのも見たくはない。
私はチラリと周りを見た。
なるほど、『聖地』なら人もあまり近づかないはずだ。
助けはそうそう来ないし、ここに入れるのは限られた人間のみだから警備も甘いのか。