3 クッキーの日
まず生地を作って麺棒で平に4ミリくらいに伸ばしたら、それを型で抜いた後、魔法でキツネ色を目安に焼く。
「できた…!」
簡単クッキーのできあがり。
「わぁ、すごい。食べていい?」
「いいよ、店番のお礼ね」
今この世界は、日本でいうところの冬だ。
店の窓から雪が降る外の様子を見ているときに何の脈絡もなく、ふと思った。
ーー甘いものが食べたいなぁ、と。
けれど店を無人にするわけにもいかないから、丁度よく店に来たアイリスにしばらくの店番を頼んだ。
クッキーはプレーンとチョコの2種類を200個ほど作り、5分の1は自分用で残りは客に配る事にする。
5個ずつ袋に入れて可愛くラッピングして大きめの籠に乗せると、それをカウンターの横に置いた。
籠に白いリボンを結ぶと見栄えもいい。
うん、完璧。
「おいしい!」
隣ではアイリスがクッキーを頬張っている。
あぁ、こぼさないようにしてよ。
店内にはいつも浄化の魔法をかけているので少々こぼしても大丈夫なのだが、せっかく作ったクッキーがもったいない。
作った側としては最後のひと欠片まできちんと食べてほしいのだ。
カランコロン
「こんにちは」
しばらくすると学生服を着た客が来店する。
ここは武器の街なので本を買う人は少ない。
だから客の7割が学生だ。
幸いこの近くには大規模な学園があり、店は儲かっている方だと思う。
情報屋や、ギルドの依頼を受けたりもしているので尚更だ。
特に情報料が結構高いので、1日で2万ニア(だいたい200万円)稼いだときは少し罪悪感を覚えた。
私は何も苦労してないのに、こんなに儲けて大丈夫なのか、と。
ちなみに、今でもその思考は抜けていない。
「これ買います」
さっき店に入ってきた学生が、2冊の本を持って私のいるカウンターに来た。
どちらも難しめの薬学の本である事から、彼女が薬師になりたい事が予想出来る。
学生からお金を受け取ると、それをポケットに入れるフリをしながら亜空間に仕舞い、本に刻まれている、勝手に本を店の外に持ち出されないための防犯術式を解除する。
そして、傍らの籠からクッキーの袋を1つ取り、本と一緒に彼女に渡した。
「当店をご利用してくださった方に今日だけ配っているんです。よかったらどうぞ」
ありがとう、と言いながら彼女はそれを受け取る。
どこの世界の人間も限定品には弱いらしく笑顔で去っていく女学生に、心の内で宣伝よろしくお願いしまーす、と呟いた。
この後の時間帯にいつもギルドでバイトをしている彼女は、おしゃべりな性格で有名だから。