第三話「どうでもいい存在」
友達になってほしい。それが彼の要望だった。
告白なら断れば、大抵そこで終わる。
だけど彼には、諦める気はないらしい・・・・。
「えっと・・・・それはまた、何で?」
一応理由は聞いてやるか。そうじゃないと、対応が出来ないし。
「俺を好きじゃないことは分かった。でも、俺は諦めることはできない」
私ごときに、そこまで執着されてもなぁ・・・・。
「だから、どんな形でもいいから傍にいたいんだ」
「それで友達」
「うん」
「はぁ・・・・その申し出も断る。私にはあなたと友達になる気はさらさらないし。仮に友達になったとして、私に何かがあると言うわけでもない」
「それでも俺は――――」
「しつこいなぁ・・・・しつこい男は嫌われるって、昔から言われてるけど知らない? あぁ。知っていたら、しつこくないか。いい? 私にとってはあなたも、昨日の告白してきた男も何ら変わらない赤の他人。赤の他人風情に、私が好意を持つことは何が起ころうと絶対に有り得ない。さっきからそう言ってるんだけど、理解できない? それなら病院に行くことを勧めるよ。それでも無理なら、人間を止めろ」
そこまで言い切ると、私は再び歩き出す。
今度は呼び止められることはなかった。
「結衣いない・・・・さすがに今日は帰ったか」
携帯を見ると、『用事が出来たから先に帰ってる』、とメールが来ていた。
やっぱりサイレントにしてると、電話もメールも気づかないな。今度からサイレント止めておこうか。
「・・・・帰ってゲームしよ」
「・・・・・・・・何でいる?」
いつも通り、朝早くに学校に一番近い駅に着いた。
理由はゲームをするため。
いつもここで結衣と合流して登校する。が、今日は結衣以外にも二人の姿が。
一人は結衣の片想いの相手で、クラスメイトの志村了介君。そしてもう一人は、
「もう一度聞く。何でここにいる? 十秒以内に答えろ、ゴミクズ」
自分でもびっくりするくらい低い声が出た。それほど自分のなかで、目の前の男が気にくわないらしい。
「この時間に来ることを知ってたから、一緒に――――」
「嘘だな。奥手貧乳とヘタレマダオ。お前たちだろう?」
目を細くして睨んでやると、結衣だけが私からさっと目を逸らす。
こいつだけがグルか。
この貧乳、どうしてくれるか・・・・。
「今ここで、片想いの相手の名前を叫んでやろうか?」
結衣だけしか聞こえないように、そう呟いてやる。
するとこの女の顔は、一気に青ざめていく。
そうだろうなぁ。自分から言いたいだろうし、こんな所で叫ばれるのも困るだろ。
私は困ることないけど。
「え、えっと私さ昨日、あそこにいたんだ・・・・」
やっぱり面白いことになってる。先回りしてて正解だったわ。
「俺を好きじゃないことは分かった。でも、俺は諦めることはできない。だから、どんな形でもいいから傍にいたいんだ」
凄いなぁ。あそこまでひなたのことを。
昨日の西岡先輩なんかは、あれで完全に諦めちゃってたのに。
「はぁ・・・・その申し出も断る。私にはあなたと友達になる気はさらさらないし。仮に友達になったとして、私に何かがあると言うわけでもない」
「それでも俺は――――」
「しつこいなぁ・・・・」
あ、キレた。
これでヘコんだら、ひなたを好きって言えないわよ、誰かさん。
「しつこい男は嫌われるって、昔から言われてるけど知らない? あぁ。知っていたら、しつこくないか。いい? 私にとってはあなたも、昨日の告白してきた男も何ら変わらない赤の他人。赤の他人風情に、私が好意を持つことは何が起ころうと絶対に有り得ない。さっきからそう言ってるんだけど、理解できない? それなら病院に行くことを勧めるよ。それでも無理なら、人間を止めろ」
その言葉のすぐ後に聞こえてきたのは、屋上の扉の閉まる音。
告白したは彼はヘコんで・・・・、
「ヤバイ・・・・すげぇ可愛い」
思いっきりずっこけたわ。もう、お笑い芸人見たいに。
「誰っ!?」
「えっと・・・・って、えぇ!?」
更に驚いたわ。
だって目の前にいたのって、
「暁。あんただったの、ひなたに告白したの」
「結衣!? 何でお前がここに!?」
従兄弟の甲斐暁だったから。
まさか、こいつがひなたをねぇ。
「いや。ひなたに告る奴が、一体誰なのか気になって・・・・」
「何だよそれ・・・・って、ひなた? 何でお前、彼女のことを呼び捨てに?」
「何あんた? 女の私にまで嫉妬?」
「違う。何でお前が、あの娘のことを・・・・」
あぁ、なるほど。それが気になってたのか。
「ひなたが友達だから。それだけよ」
「お前と友達・・・・じゃあさ、きっかけだけでも」
きっかけだけでも、ねぇ・・・・ま、従兄弟のよしみで考えてあげないこともないんだけど。
てかこの告白しただけでも、きっかけ作れたでしょうが。
「いいわ。明日の朝、駅に7時半。その時間に来れば、ひなたに会えるわよ」
「ほ、本当か!? サンキュー、結衣!」
面白いことになってきたわねぇ。面倒なことにもなりそうだけど・・・・ま、いっか。
お互いが何とかするでしょ。
・・・・死ね、貧乳の雌が。で、そこのマダオは何で?」
「俺か。こいつとは中学のころからの友達でな。それで女子二人に男一人は気まずいらしく、来てくれと頼まれただけだ」
「あっそ・・・・」
二人と話を終えて、となりの男を見つめる。
やっぱり気にくわない。理由はこいつがいると、私の時間がなくなる気がする。
気がするじゃなくて、絶対になくなる。
「改めて自己紹介するよ。俺の名前は甲斐――――」
「どうでもいい・・・・」
こんな所で話をしてる場合じゃなかった。さっさとあいつを狩ってしまわないと、あの装備と武器が作れない。
「結衣・・・・覚えておけ・・・・」
怒りを込めて睨んでから、私は一人、学校へと向かった。
「ひーなたっ♪」
こいつ・・・・。
「誰が名前を呼んでいいと言った。私の神聖な名前が汚れるから、二度と名前を呼ぶな。この畜生以下が」
「俺って畜生以下!?」
「何当たり前のことで驚いているの? まさか、ずっと人間だと思ってたわけ。びっくりだよ。人間様に謝れ、ミジンコ以下」
「更にランクが下がった!?」
うっとおしい・・・・そう言えばあの貧乳と、志村君はどうしたんだ?
一緒にいてもあの雌は、舞い上がって話せないだろうに。
「そろそろ梅雨かぁ」
「そ、そそそそそうだね!」
「中島って、暁と従姉妹だったんだな。知らなかった」
「わ、わわたしも、暁が了介君と友達だったなんて、びっくりしたよ」
見てて、こっちが疲れる。
さっさと告れば、あんなことにはならないだろ。
「結衣って、もしかして了介のことを?」
私にしか聞こえないように聞いてくるが、その問いに私が答えてやる義理はない。
というか、あれを見れば一目瞭然だ。何を聞く必要がある。
そんなことよりも、ゲームゲーム。読み通り、この罠は無効か。どうするかな・・・・。
「ひなたって、可愛いなぁ・・・・」
今の単語を聞いて、ミジンコ以下の顔を見る。
こいつは突然、脈絡もなく何を言ってやがる?
「えっ、どうしたの?」
「死ねばいいのに」
それだけ呟いて、私は完全にゲームに集中した。
そのおかげでチャイムが聞こえず、ゲームが担任にバレかけたけど。
結衣の奴。舞い上がってて、私のこと完全に忘れてやがったな・・・・。
四限目の授業が終わり、昼休みになった。弁当を持って立ち上がった瞬間、自分の表情が歪むのがわかった。
この教室の、後ろの出入り口にあいつがいたから。
「どうしたのよ、ひなた? 顔が、ヤバイわよ」
「ヤバイのは、お前の体型だ。女らしさ0女」
「これ、泣いてもいいよね?」
「勝手にしろ。ん?」
今気づいたけど、クラスの女子があいつを見つめて惚けてる。
バカみたいな顔。
「ひなた。一緒に昼飯――――」
「嫌だ。誰がお前と食べるか。それなら死んだ方がましだ。つか、お前が死ねっ」
「ひなた」
何か周りから視線を感じるけど、私には関係ない。 全部を無視して、私は教室から出た。
それでも私の機嫌は治らない。いや、治せない。後ろから結衣だけじゃなく、あいつもついてくるから。
ホント、いい加減にしてほしい。
「珍しいじゃない」
「何が?」
「他人になかなか興味を示さないあんたが、一人の人間に対して、そこまで感情を出して嫌がるなんて」
「何を言ってるわけ? とうとう頭がおかしくなった? 私がこんなウジ虫以下の奴に、興味を持つ分けないでしょうが」
「本人がいる前で、普通そんなこと言う?」
後ろで何か聞こえてきたけど、私は答えることなく歩き続ける。
「じゃあ質問」
「何?」
「暁のことどう思ってる? 好き? 嫌い?」
「どうでもいい。そんな相手に、その二つの感情を抱くわけないでしょ」
そう言ったとき結衣は苦笑いを浮かべ、後ろでは落胆ではなく変なやる気が見えていた。
・・・・意味が分からない。