第二話「想定外の告白」
「あんたも大胆よねぇ〜」
「何が?」
次の日。
いつものように、朝早くから学校に来ていた。
理由は簡単。ゲームがしたいから。
「昨日のあれよ。この学校で一二を争うイケメンの、西岡先輩を振るとは」
「あの人、西岡って言うんだ。ま、どうでもいいけど」
「へ? あんた、あの人が誰か知らなかったの?」
「うん。存在自体、昨日のあの時初めて知ったから」
ゲームの画面から目を放すことなく、友人である中島結衣の話しに耳を傾ける。
「いや、普通は知ってるでしょ。あの人この学校じゃ、五本の指に入るイケメンよ」
「興味ないから、そんなの。そもそも、あんなのがイケメンってどうなの? 気持ち悪い」
「それは言い過ぎ。で、振った理由は?」
「私があっちの存在を知らないから。興味がないから。好きでもない男と付き合うのは、絶対に無理だから」
「・・・・本当の理由は?」
「あんな、軽そうな男と付き合えるかバカ。あの時の顔は良かったよ。私が最初からOKすると、本気で思ってたんだろうね。思い出しただけでも、笑えてくるよ。あのバカ丸出しの、呆けた顔」
ゲームをしまい、結衣の方を見ると苦笑いを浮かべていた。
理由は分かるけど。
「ひなた・・・・あんた、いい性格してるわね」
「ありがとう、結衣。最高の誉め言葉だわ」
「誉めてないわよ。で、話しは戻るけど、完全にあんたの偏見よ」
「何が?」
「西岡先輩のこと。あの人、かなりの好青年で有名よ。あんたが言ったみたいなことは、ほぼないと言っていいわね」
「ふーん・・・・そういう人間て脆いとこありそうだから、もっとズタズタにしてあげても、面白いだろうなぁ・・・・」
「昨日の時点で、精神的ダメージがあるから、もう止めておきなさい」
ま、完璧に止めをさしたはずだから、二度とあの人から告白されることはないでしょ。
「って、何? 私の顔に何かついてる?」
「いや。黙ってれば可愛いのに、って思っただけ」
「可愛い、ねぇ・・・・」
今まで結衣や他の友人達にも言われてきたけど、そんな実感は皆無だ。
私なんかより、結衣の方が可愛いと思う。
それを言ったら嫌味かって、結衣に言われたっけ。
「って、結衣。黙ってればはどういうこと?」
「いや、本当のことでしょ。あの毒舌がなければ。結構有名よ。あんたのそれ」
「ふーん、そうなんだ。まぁ、私は気にしないけど」
そう。これだけは気にしたところでしょうがない。
「そう言えばさぁ、結衣」
「何よ?」
「そのまな板、成長した?」
ビキリと固まる結衣の表情。
いいねぇ、その顔。見てるだけで、こっちは楽しいよ。
「私は最近サイズが合わなくなってさ。前の日曜に変えたばかりなんだよね」
「ははは・・・・何を言ってるのかな、ひなた?」
「あぁ、なるほど。結衣はまだ――――」
「言うなぁぁぁぁ!」
ちっ。
まぁ今の大声で恥ずかしいのは結衣だし。私には関係なし。
「あんたは、人が気にしてることを・・・・」
「そんなことを気にして、時間の無駄じゃない?」
「うるさい! あんたには分からないわよ、私の悩みなんて!」
私の胸を指差して叫ぶ結衣。
まぁ、分かるわけないよ。私だって大きい訳じゃないけど、Cの真ん中くらいはあるから。
「じゃあ彼氏でも作って、大きくしてもらうといいんじゃない。または一人で努力するとか」
「それが出来たら苦労しないわよぉ〜」
「あっそ」
瞳に涙を溜め、私を睨んでくる。そんな目をしても、私にはノーダメージ。
痛くも痒くもない。
「つかさ、いい加減に告白すれば」
「え?」
「いつまで志村君に片思いし続ける気?」
一気に赤くなる結衣の顔。かわいいなぁ、結衣。
「だって――――」
「呼んだか、八雲?」
呼ばれて振り向くと、そこには志村君が立っていた。
「り、了介君!?」
片思いの相手の登場か。
気づけば、教室にはほとんどの生徒が登校してきていた。
もうそんな時間か。
「呼んではないよ」
「そっか。ん? どうした、中島。顔真っ赤だけど、熱でもあるのか? そうなら――――」
「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」
「そ、そうか。それならいいけど」
乙女だねぇ〜。
結衣の奴、顔真っ赤にして。
こういうのを弄ると楽しいんだけど、しばらくは声届かないからほっとくか。
「さて。一限目は何だったかな・・・・」
真っ赤な顔で悶々としている結衣を尻目に、私は授業の準備を始めた。
いつ復活するか分からないのを見ていても、時間の無駄だしね。
「で。さっきから、あれは何な訳? すごくウザイんだけど。全員死ねばいいのに」
何が起きているのかと言うと、中庭にいる生徒の大半が私を見ている。
ただ弁当を食べてるだけの私を見て、何が面白いのか800字の作文用紙に8割書いて、私に提出をお願いするよ。
「何でそうなるのよ」
「じゃあ地獄に落ちればいい」
「いやいや」
「うっさいなぁ・・・・握りつぶすよ、結衣」
「・・・・怖いから、何をとは訊かない。で、この状況だけど昨日のあれが原因だと思うわよ」
昨日の・・・・昨日の・・・・あぁ、あの告白された奴か。
「意味が分かんない。詳しい説明を求む」
「はいはい。朝言った通り、この学校じゃ有名人なわけよ。そんな人の告白だから、すぐに噂が広がるのは当たり前なの」
「そんな当たり前は、いまここで捨てろ」
「その告白を断ったのは誰かって、みんな興味わくじゃん。だから、あんたを一目見ようと集まってきてるわけ。それにさ、あんたも一応有名人よ」
「何で?」
素直な疑問だった。
こんな普通な私が、この学校の有名人な訳がない。
「昨日のことは別にして、あんた結構美少女よ」
「結衣・・・・」
「何よ?」
「あんた、まだ志村君と話せて舞い上がってるの? 気持ち悪い」
「気持ち悪いって何よ! 私としては――――」
「奇跡的なこと、でしょ。言われなくとも分かってるっての」
この話題を出す度に言われてればね。
「というか、何で美少女って言われて認めないのよ、あんたは?」
「何度も言ってるけど、私は美少女じゃないよ。私なんかより、結衣の方が美少女で可愛いから。って、何その顔?」
「あんた、一回刺されたらいいわよ」
意味がわからない。いや、本気と書いてマジで。
そんな私を見てため息をついた結衣は、止めていた箸を動かし始めた。
何かおかしいことでも言ったかな、私?
さて放課後。
今日は結衣も部活もないため、遊びに行こうかと思っていたんだけど、それは出来なくなった。
理由としては、目の前にいる見知らぬというか、ついさっき会ったばかりの男子生徒が原因だ。
「で、話って? わざわざ教室にまで来て呼び出したんだから、下らない内容だったりしたら踏み潰すよ・・・・」
一応、結衣には教室で待ってるように言ったけど、絶対にいるよな。
あの扉の向こうに。
ホント、物好きな奴。
それはこの男子生徒にも言えるか。
「あ、うん」
「じゃ、ちゃっちゃと本題にね」
昨日の今日だから、何を言われるか分かってるんだけどね。
今回も止めを指すとしようか。
「八雲ひなたさん」
「はい」
「あなたのことが好きです。俺の彼女になってください」
「ならない。絶対にならない」
これも昨日と同じように、『い』を発音するのと同時に断ってやった。
「あなたは私のことを好きでも、私は好きじゃないの。何で好きでもない相手と、付き合う必要性があるの?」
「そ、それは・・・・」
「でしょ? あなただってそれは同じだとおもうけど」
何か言いたそうだけど構わない。私は有無を言わせず言葉を続ける。
「だから私は、あなたと付き合うことはできない。付き合う気もない。分かってくれた?」
「はい・・・・」
「それじゃあね。名も知らぬ男子生徒」
これで彼も諦めてくれる。そう思い、扉に向かって歩き始めた。
だけど、それは私の思い違いだった。
「待って!」
はぁ・・・・少しは手加減しようと思ってたんだけど。しょうがない。
手加減なしで・・・・、
「分かんな――――」
「だ、だったら・・・・友達になってくれないかな」
「え?」
振り返り見た彼の顔に、私の予想した諦めの色は一切なかった。
「ダメかな、八雲ひなたさん」
えーと、予想外なんですけども。
なかなか、ひなたの毒舌を出すことが出来ないですね。
次回は出せたらいいなぁ。
というわけで、次回もお楽しみに〜。
それではまた。