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言いたいことはそれだけですか。では、始めましょう  作者: 井藤 美樹


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第九話 聖獣様と番候補



 最低最悪な、実害しかない国王陛下達だけど、私を取り巻く空気がガラリと変わった事は、肌で感じたようね。

 

(動物的感、もしくは、敵意を感じ取ったからか)


 怒鳴るのを止めた代わりに、私を射殺さん程の殺意を込めた目で睨み付けてくる。


(死にたいの? 婚約者の前で、私に殺意を向けるなんて。本当、愚かだわ)


 私がイシリス様を止めなければ、今頃、形がなくなるまでにボコボコにされて、魂も焼け尽くされていてもおかしくないのに。いや、それでも甘いかもね。イシリス様の番愛は、なかなかなものだから、終わりは訪れないかもしれないわ。 


「女性として魅力がなくて、性格が悪いからですか……確かに平凡ですし、褒められた性格ではないわね。でも……私は、長きに渡り、この国を護って下さった聖獣様に背くような事を平気でする、不届き者でも、犯罪者でもないわ」


 貴族令嬢の仮面を外したから、言葉遣いも軽いものへと変わる。


「な、なんと無礼な!! 余を不届き者や犯罪者呼ばわりなど、許されぬぞ!! 聖なる乙女候補だからといって、図に乗るな!!」


 頭の血管が切れそうな程、顔を真っ赤にして、国王陛下は怒鳴り散らす。


(さっきから、候補、候補って、煩い!! 何言ってるのよ害虫が!!)


「陛下の言う通りです!! ミネリア、貴女は所詮、候補に過ぎないのです!! 今までは、一人しかいなかったから、多少の発言は許していましたが、今は違います!! 可愛い我が娘二人も、聖獣様に選ばれた乙女。身の程をわきまえなさい!!」


 ヒステリー丸出しで、王妃殿下も声を荒げる。私の呼び名も、呼び捨てだ。


 そこに、一国の王妃は何処にもいなかった。居るのは、醜悪な姿をしたヒステリー女だ。王女二人も母親に似たのか、私を睨み付け、「「そうよ!! 今すぐ跪きなさい!!」」と喚いている。


(救いようがないわね)


「……聖獣様に選ばれた? イシリス様、選びましたの?」


 百パーセントないと分かっていても、言葉として残すために尋ねた。


 嫌悪感マックス状態を隠そうとはせずに、イシリス様は心底不快な声で答える。同時に、自分に掛けていた認識阻害の魔法を解いた。全員がイシリス様の人化の姿を見る。


 イシリス様の美しさと凛々しさ、そして圧倒的な存在感に、感嘆の声があちこちから上がった。王女二人も虜になったみたいね。当然の反応だわ。初めてイシリス様を見た時よりも、前のめりになっているわね。


「選ぶわけないだろ。俺の番はミネリア、お前だけだ」


 周囲の溜め息や視線など意に介せず、イシリス様は吐き捨てた。  


「だそうですわ。不思議ですね。国王陛下、王妃殿下、聖獣様であるイシリス様が選んでいないのに、何故、他の方に印が表れたのでしょう?」


(さぁ、どう答えるの)


 これが、最後。


 情けを掛けてあげる。でも、愚かな貴方達は素直に罪を認めるわけないよね。どんな言い訳をするのかな。それとも、突き進むのかな。


「そ、それは、この者が、聖獣様だという証はあるのか!?」


(そう来たか〜ん? それ、おかしくない?)


「イシリス様、国王陛下にお会いになった事ないのですか? 戴冠式の際とか?」


 歴史書において、聖獣様と歴代の王が共に並ぶ姿が多く描かれている。戴冠式などには、祝福を与えるために訪れたとか……有名な話よ。先王もそうだったと聞いているわ。


「ないな。先王の時は何度か訪ねて、共に酒を飲んだりもしたが、こいつが即位すると決まってからは、一度も王城には来ていない。ミネリアの護衛のための分身は別として」


(うっわ〜辛辣)


 イシリス様本人は、事実を述べただけだけど。国王陛下にとっては、致命傷を負う傷を受けた。なんせ、公の場で、聖獣様に認められていない王と認識されたわけだから。


 まぁ、納得するわ。この性格が、国王になってからだとは思わないもの。幼少期からって普通思うわね。実際そうだったようだし。矯正出来なかった事を、さぞかし先王様は冷たい土の下で嘆いているわね。


「必要ないからですか?」


 私もなかなか性格悪いからね、ここは、はっきりとイシリス様の口から言って頂きましょう。


「ああ。こいつは、どう転んでも王の器になれぬからな。なら、行く必要ないだろ? 先王は不出来な息子の事をとても気に病んでいてな、情けとして、国が滅びぬ程度護ってやっていた。まぁそれも、今日までだがな」


 はい、頂きました。


 他国の要人、高位貴族が出席しているパーティー会場での、聖獣様による国王不適任発言。きっちり、止めを刺してあげたわ。笑みが止まらない。


 国王陛下を含む王族全員が、顔を真っ赤にして、怒りでわなわなと震えていた。ショックで打ちひしがれるのではなくて、怒りに変換するタイプみたいね。


 でも、最後の台詞は耳に入っていなかったようね。一番大事な事なのに。ほんと、愚か。そう思うのは何度目かな。これで、国王を名乗っていたのだから、傀儡に近い扱いだったと思うわ。余程、周りが優秀だったのね。そして、彼らを育てたのが先王様か……その筆頭が宰相様ね。


(欲しいわね、宰相様。彼を引き入れれば、自然と優秀な文官もゲット出来るわ)


 心の中でニンマリと嗤う。


「だそうですわ。ならば、聖獣様のお姿を知らなくて当然ね、国王陛下。聖獣様が認めていないのですから、失礼しました。では、いい機会なので、ご紹介致しましょう。私の婚約者、聖獣イシリス様です」


 そう私が紹介すると、イシリス様は本来の姿へと戻る。私の背丈を有に超える、白銀の毛に覆われたフェンリルの姿に。


 腰を抜かす、王族の方々。


(いやいや、私の婚約者って紹介しているんだから、聖獣様に決まってるでしょ。そうでなきゃ、誰よ。王女様達も気付いていたから、イシリス様に熱い目を送ったのよね。えっ、まさか気付いてなかったの? マジで……嘘でしょ)


 王族たちの思考回路、私の想像を遥かに越えてるわね。まるで、ご都合主義の塊だわ。



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