第七話 もう駄目ですね
馬鹿王子達は両脇から近衛騎士に肩を掴まれ、跪かされた。そのまま、拘束されている。そんな彼らに、私は再度尋ねた。
「不思議に思っていたのですが、何故、クラスが違う私がマリアさんを虐める事が出来るのです? それに何故、リアス様がやってもいない虐めをしたと考えたのですか? 証拠でもあるのですか? あれば、既に出していますよね。まさかと思いますが、証拠って私ですか? 論外ですね。そもそも先に、不貞行為をしたのは、そこにいる第一王子殿下と貴女でしょう。違いますか?」
「不貞行為だと!? 違う、真実の愛だ!!」
ドヤ顔で断言する馬鹿王子に、私は苦笑する。
(いや、どこからどう見ても、不貞行為でしょうが)
「私達は真実の愛で結ばれています。でも……」
マリアは目を伏せ、意味深な終わり方をする。
(それって、もしかして、自分が〈聖なる乙女〉だという伏線なの? なら、はっきりと否定してあげないといけないわね)
でもその前に、そのお花畑の頭に現実を分からせてあげる。だって、高級料理店に来て、いきなり前菜飛ばしてメイン料理が出て来たら冷めるでしょ。
「婚約者がいる相手と恋仲に落ちる。それを世の中では、不貞行為と言うのですよ。真実の愛は、貴方がたの頭の中だけにしといて下さいね」
口調は柔らかいが、馬鹿王子達を見下ろす目と口元の笑みは、背筋がゾッとする程冷たいものだった。
「酷い!! どうして、罪を認めないのですか!? リアス様もミネリアさんも!!」
(まだ言うか、この女)
馬鹿の一つ覚えのように、肩を震わせ泣けば、同情が得られると思っている。まぁ、もうその手しかないのだろうけど、不愉快だわ。
「ねぇ、どうして、私はさん付けで呼ばれるのかしら? それに、私は貴女に名前を呼ぶ許可を出した覚えはありませんが?」
「えっ!? だって、ミネリアさんは私と同じクラスで、パン屋の娘でしょ」
(この話の流れで、まだ私が平民だと思っているなんて……これも、お花畑特有のものなの?)
「違いますよ。貴女には記憶する能力が極端に欠けてますね。それとも、都合のいい事しか耳に入らないのですか? 私はベルケイド伯爵家の娘ですわ。パン屋の娘ではありません」
「えっ、嘘よ!! だって、クラスにいるもの、ミネリアっていう平凡で冴えない女が!!」
何度も何度も、平凡で冴えないって言われると、さすがにへこむわ。自覚しているけど、他者から言われたらこんなに腹が立つのね。でも、合点がいったわ。
「つまり、こういう事ですか。貴女に対し、何かしらの虐めや嫌がらせがあった。そんな事をする可能性が一番高いのは、第一王子殿下の婚約者であるリアス様。貴女自身、第一王子殿下を手に入れるためには、リアス様が一番の障害だった、だから、蹴落とすにはもってこいだと考えた。そこまで、合っていますか?」
私がそう尋ねると、マリアは唇を噛み締め睨み付けて来た。間違ってはいないみたいね。私は続ける。
「合っているようですね。では、続けます。そんな矢先、貴方のクラスにいるミネリアさんと同名の名が聞こえて来た。当然、貴女は視線を向けるでしょう。そして見た。私とリアス様が会話を楽しんでいる場面を。おそらく、食堂でしょうね。何度か、ランチを御一緒にした事がありますから。勘違いした貴女は、私が貴女を虐めた実行犯だと思い込み、断罪を行った」
(こんな所かな)
「……よく、分かったわね。そうよ、貴女、本当に伯爵令嬢なの?」
「そう、何度も申し上げていますが? まだ、ご理解頂けないのかしら?」
「そう見えないのよ。貴女からは平民の匂いがするわ」
青筋立てながら笑顔で答えると、更にマリアは失礼な事を言ってきた。
「それは否定出来ませんね。なんせ、田舎の辺境地が領地ですから。周りは畑と牧草地、広大な土地の大半は山と森ですからね。王都に住む平民よりも田舎者である事は、間違いありませんね」
「そんな所、私なら住めないわ」
(でしょうね)
それにしても、おかしな事を言うのね。私はニンマリと嗤う。勿論、その顔は誰にも見られてはいない。
「聖なる乙女なのに? もし、聖獣様が田舎での生活を望まれたら、どうなさるのかしら?」
「もしそうならば、王都の楽しさを教えます」
自信満々にマリアは答えた。
「あら、おかしな事を。その発言、まるでマリアさん、貴女の方が聖獣様より立場が上のように聞こえますわ」
「そう聞こえるのなら、ミネリア……様、貴女の心が穢れているからだわ」
いやいや、至極当たり前の事を言っただけなのに、酷い言い草ね。
「そうだ!! お前は、悪魔のような女だからな、穢れて当然だ!!」
馬鹿王子達の存在、目に入っていなかったわ。怒鳴られても、小バエ程度の存在感しかない。
「穢れきった人に穢れていると言われましたわ、イシリス様。私、ショックですわ」
蛙を近衛騎士に渡したイシリス様が、私の隣に立つ。そして、腰に手を回し引き寄せる。自然と、私とイシリス様は密着した。この時点で、まだイシリス様は認識阻害の魔法を解いてはいない。
「安心しろ、ミネリアはこの中にいる誰よりも、清純で美しい。さぁ、我が愛しの番よ、どうしたい? 今すぐ、この馬鹿共を殺すか? それとも、この国を滅ぼしてやろうか?」
イシリス様が甘い笑顔で、私に尋ねてくる。まるで、デートに誘われた時みたいに。
パーティー会場は上級魔法で殺され掛けた時までとはいかないが、ざわつき、さわがしくなった。
宰相様とリアス様は、もはや何の言葉も出て来ないのか、厳しく、険しい表情で、国王陛下達王族を睨み付けていた。
反対に、国王陛下達王族は、事の重大さを全く感じていないのか、ただただ不愉快そうだった。
(……もう駄目ね、この国は)
「焦らないで、イシリス様。そのような事、いつでも出来ますから。でもその前に、どうしても、確認しておきたい事があるの」
止めやしない。見切りを付けたからこそ、有耶無耶に出来ない事があった。
「分かった」
(本当に優しい方だわ)
イシリス様が、私を見付け選んでくれた事に、心から創世神様に感謝したい。
「……さて、私が確かめたい事は一つ。国王陛下、馬鹿王子とその側近候補達がしでかした事、貴方は全て御存知でしたね」
見切りを付けた以上、もう言葉を選ぶ必要はない。確信をもって口にする。
(さぁ、ここからが本番よ――)




