第六話 既に未来は決まっている
おや、おや、国王陛下と王妃殿下だけかと思ったら、第一王女殿下と第二王女殿下まで一緒じゃない。それも、贅を凝らしたドレスでの登場ですか……
(どうやら、嫌な予感は当たっていたのかもしれない)
上品な装いながらも、大胆なデザイン。意中の男を絶対落としてやる感、見え見え過ぎて正直引くわ。
(まぁ……間違いなく、イシリス様よね)
もしそうなら、完膚無きまでに返り討ちにしてやるわよ。
そんな王族達の後ろから、何故か宰相も入場して来た。だけどその表情は、とても疲れていて険しい。
(頑張って止めたけど、止められなかったって事か……)
苦労してるわね、宰相様。なんせ、彼がいるから国が維持出来ているって、もっぱらな噂だし。事実、そうだと思う。因みに、リアス様のお父様だよ。
第一王女殿下と第二王女殿下は、イシリス様を熱い目でジッと見詰めている。
(やっばり……あ〜そういう事か)
無理矢理祝賀会に呼んで、この後泊まれと命じられた意味が理解出来たわ。マジで、小賢しい。
怒りが沸々と湧いてくる。さっきまでの戯言も一緒になって、私の方がキレそうになった。それは隠せるものじゃなく、纏っていた空気がピンと張り詰めたものへと変わった。
それを鋭く察知したのは、リアス様と宰相、そしてイシリス様だけだった。近くにいる王族の方々は一切気付いてはいない。馬鹿王子も大概だけど、さすがに製造した親だけの事はあるわ。
(あんた達、この国を滅ばしたいの? それとも、冴えない私に取って代われると、本気で思っているの!?)
「……不愉快だわ。決めるのは、イシリス様なのに」
思わず声に出た。小さい声だったから、聞こえたのはリアス様とイシリス様だけ。
因みにイシリス様は、私の声なら、どんなに遠く離れていてもはっきりと聞こえるらしい。番の声だから。
「どういう事だ!? 一体、何があった!?」
馬鹿王子と同様、国王陛下も負けじと声を張り上げる。
(騎士から聞いてるでしょうが!? 白々しい)
「父上!! リアスとそこにいる女、アルトを踏み付けているあの男の極刑を望みます!!」
馬鹿王子はマリアの背中に手を添え、切実な表情を浮かべ、国王陛下に嘆願した。
「極刑!? 何を言っている!? リアスとミネリア様だけでなく、そこにいる御方を極刑など!!」
(辛うじて、私を様呼びしているけど、謝罪はなしか……随分と、軽く見られたものね。今まで、特に何も言わなかったから、図に乗ってるのね)
この時点で、気付く人間なら気付くわよ。でも、馬鹿王子と側近達は全く気付いていない。マリアだけは、少し気付き出したみたい。でも、もう遅いし止まれないけどね。
確かに、平凡な容姿だけど、私はちゃんとファミリーネームを名乗ったのよ。なのに、ファミリーネームを持たない平民だと思い込んだ。何度も訂正したのにね。
「それだけの罪を犯したのです!! 聖なる乙女であるマリアを足蹴にしただけでなく、酷い虐めを繰り返しました。リアスはそこにいる女に命じさせたのです!! 国が擁護し、護らなければならない存在をです!! 決して、許されるものではありません!!」
ここぞとばかりに、馬鹿王子は自分達が正義だと訴える。
「……私が悪いのです。ジェイド様をお慕いしたばかりに……リアス様に不快な想いをさせてしまいました。だから、お願い致します、国王陛下、リアス様達の罪を軽くして下さい!!」
涙ながらに、マリアは訴える。
(さらなる一手を打ったつもりだけど、既にあんた達の未来は決まっているのよ。残念ながらね)
「女、誰が、お前に話す許可を与えた」
国王陛下は、凍える様は目でマリアを見下ろす。
「も、申し訳ありません!!」
注意されたばかりなのに、また同じ事を繰り返す。鳥頭並の脳味噌量らしい。
「お前は、国王である我に、同じ台詞を繰り返し言わせるつもりか?」
国王陛下の台詞に、マリアは子鹿のように震えながら馬鹿王子に縋り付く。それを、国王陛下達は忌々しそうに睨み付けている。
そして、視線をリアス様に戻すと、国王陛下は尋ねた。
「リアスよ、ジェイドはこう言っているが、そこの女を虐めたのか? ミネリア様を使って」
「そのような事は、決して致しておりません!! ましてや、ミネリア様を使うなど、聖獣様に誓ってありませんわ」
パーティー会場がどよめいた。
聖獣様に誓うという事は、その発言に命を掛けるって事だ。つまり嘘なら、その場で自害すると宣言したの。
「そうか……我は、リアスの言葉を信じよう」
「父上!!」
国王陛下の沙汰に馬鹿王子は反発し、縋るように声を荒げる。
「おって処罰を言い渡す。それまで、ジェイド達を牢屋に放り込んでおけ!!」
「それは、なりません!! 陛下!!」
勝手に幕引きをしようとしている国王陛下に、宰相は苦言を呈する。それを、国王陛下は「構わん!!」の一言で無下にした。
その言動に、私のブチブチと堪忍袋の尾が切れた。
「はぁ!? 何を仰っているのですか? 国王陛下。まさか、このまま有耶無耶にする気ですか? そのような考えはありませんよね?」
詰め寄る私に、国王陛下は焦りと不愉快を滲ませ、渋々答えた。
「……有耶無耶にするつもりはない」
即答でないのに腹が立ったけど、一応言質は貰ったわ。ニヤリと嗤う。
「そうですか、安心しましたわ。リアス様に無実の罪をでっち上げ、このような公の場で断罪し、クラスが違う私を虐めの片棒を担いだという冤罪を吹っ掛けた。ましてや、〈聖なる乙女〉だと偽証し、あまつさえ、パーティーの参加者を殺そうとした。それら全てを正当化し、私とイシリス様、リアス様を処刑するとまでほざいた。その責任を、どうとるおつもりですか?」
にこやかに言ってやった。まさか、私がここまで言うとは思ってはいなかったみたいね。馬鹿みたいに間抜け面を晒しているもの。
普段は薬草とかに興味がある、ちょっと変わった、大人しくて扱いやすい娘だと、王族の皆は勝手に認識していたからね。私は敢えて、間違いを正さなかった。その方が楽だったのもあるけど、何かあった時は、その方が動けると考えていたからね。
顔を真っ赤にしながら、国王陛下は唸る。王妃殿下達も私に対し、険しい目を向けている。馬鹿王子達は「王族に対し無礼だ!!」って、まだ怒鳴ってるよ。宰相様は絶望的な表情で項垂れてる。
(カオスだね〜)
これが国のトップだと思うと、頭が痛いわ。マジで、この国に未来はないと思う。まぁ、私はどっちでも構わないけど。その前に、きっちりとケリは付けさせてもらうわ。当然でしょ。
先に喧嘩を吹っ掛けて来たのは、貴方達なんだから――




