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言いたいことはそれだけですか。では、始めましょう  作者: 井藤 美樹
第三章 神罰が一回だけとは限らない

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第三十一話 追い詰められる〈リアス過去編〉



 宰相様が放った台詞が、上手く私の中で処理出来ない。それでも、頭は理解はしていた。


「なっ!? モリアス様、自分が何を言ったか理解しているの!? 殺したと言ったのよ!!」


 にわかには信じられない話に、私は令嬢らしからぬ大声で問いただしてしまった。


 だって、そうでしょ。確かに、王族全員が屑なのは間違いないわ。ないけど……そこまでするとは思わなかった。思いたくなかった。でも考えてみれば、今の状況もある意味同じなのかもしれない。自分が楽するために他者の命を奪う。自分達が招いた責任を取らず、死ぬと分かっていて門を開かない。


(屑達はもう人ではないわ。人間の皮を被った悪魔だわ)


「……リアスは、我が娘ながら、優秀で努力をおしみません。責任感も強く向上心もある。しかし、それがいけなかった。あの屑達にとって、リアスは格好の駒になってしまったのです」


 宰相様から吐き出される言葉からは、自責の念と底知れぬ深い怒りを感じた。


「……想像したくはありませんが、仕事を押し付けるには、丁度いい相手ですね。第一王子の婚約者ですから。現に、生徒会の仕事も丸投げしていましたし」


 当時を振り返りながら、私は宰相様の台詞を肯定する。


(でもそれが、他者の命を奪う事とどう繋がるの?)


「リアスは、第一王子の仕事、果ては王妃殿下の仕事までこなしておりました。深夜まで。……僅かな睡眠時間、学園で堂々と不貞する第一王子、心が休まる時間がない中で、唯一、リアスを癒やしてくれたのが、隠れて世話をしていた小動物達だったそうです」


 学園は無駄に広かったからね、小動物が棲み着いてるの何度か見た事があるわ。私でも心が和む。


 理不尽な扱いを受け、追い詰められていたリアス様が、癒やしを求める気持ちはとても理解出来るわ。もし、その癒やしがなかったら、リアス様の心は壊れていたかもしれない。


(いや……もう、だいぶん壊れているかも。そこまで追い詰めた屑達、許せないわ)


 怒りが湧き上がる。その怒りを何とか抑え込むために、軽く息を吐いた。少し冷静になった頭で思う。


(モリアス様の言い方だと、おそらく、その小動物を――)


「……では、殺された友人とは」


 私がそう口にした時、イシリス様の身体に緊張が走るのを感じた。


「はい。漸く見付けた癒やしの時間でしたが、長くは続きませんでした。不貞に忙しい屑は、生徒会の仕事まで押し付けようとしました。その時、リアスは屑に初めて意見したそうです。『これ以上は出来ない』と。当然です。リアスは王妃殿下と第一王子の仕事をしているのですから。しかし、拒否されると考えていなかった屑は怒り狂い、リアスが隠れて世話をしていた猫を、娘の前で殺したそうです」


 そうはっきりと宰相様が告げた瞬間、部屋の温度が一気に下がった。下げたのは、ずっと黙って話を聞いていたイシリス様だ。


 無言のまま、イシリス様は腰を上げる。私は咄嗟に、その腕を掴んで止めた。


「お待ち下さい、イシリス様!! 短気は損気ですよ。最後まで、話を聞きましょう」


 イシリス様と同様、私も乗り込みたい気持ちで一杯だったから。それは、控えていた侍女も同じだろう。


 渋々、イシリス様がソファーに腰を下ろしてから、私は掴んでいた手を離し、宰相様に視線を戻した。


「その話を聞いたのは、いつです?」


 返答次第によっては、宰相様との接し方も考えなければならない。当然でしょ。そこまで追い詰められた娘を助けない人間に、ベルケイド王国を任せるわけにはいかない。


「あの婚約破棄騒動の直ぐ後です」


「随分、遅くはありませんか?」


 同じ王城にいたのだから、知ろうと思えば知れた筈。当時のリアス様の様子を見れば、さすがに気付くでしょ。もし、気付かないのなら、親失格だわ。


「ミネリア王女殿下の仰る通りです。無理を通してでも会うべきだった。自分の不甲斐なさに言葉が出ません」


 悔しそうに、宰相様は両拳を震わせながら吐き出す。


 それを見て、私は思う。


 さっき感じた底知れぬ怒りは、屑達以外に、自分に対しても湧いた怒りだったのだと。


 正直、宰相様の置かれた立場では、難しかったかもしれない。無理に会って心配している素振りを見せたら、屑達を喜ばせる可能性がある。下手したら、今以上に、リアス様を人質として利用するかもしれない。(うち)と同じ様に。色々考え、手をこまねいているうちに、時間だけが経ったって所ね。


 リアス様は宰相様を手元に置き、働かせる人質になる。同時に、リアス様にとっても。


(本当、胸糞悪い話よね)


 始めからそう言えばいいのに、言わないのは、それが言い訳だと分かっているからか……自分の不甲斐なさに気付いているならいいわ。


「そう考えていらっしゃるのなら、全て包み隠さず教えて下さい。まだ、あるのでしょう?」


 私は宰相様を見据えたまま、そう尋ねた。




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