第三十話 王印〈リアス過去編〉
胸を押さえ、宰相様は苦しそうに「自分が悪い」と吐き出す。
子煩悩なモリアス様だからかと、一瞬考えはしたけど、あの屑達がいる亡王国の宰相を務めていたのだから、色々あったのかもしれない。そんな事を考えながら、私は尋ねた。
「リアス様を護れなかった……それは、どういう意味ですか? モリアス様」
「ミネリア王女殿下は、あの亡王国の王族達が仕事をすると思いますか?」
質問を質問で返された。
「しないでしょうね。もししたとしても、自分達の利益になる政策ばかりで、民や下位貴族にとっては愚策でしかないわね」
宰相様の意図は掴めなかったけど、質問には答える。
なんせ、皆、下半身に脳味噌が付いている一族だからね。本能により忠実でしょ。今は、その自慢の下半身も腐り落ちてる頃よね。
「その通りです。なので、却って手を出されない方が、こちらとしては助かる有り様でした。とはいえ、全てを、私どもで取り計らう事は出来ません」
ここまで聞いて、宰相様が何を言おうとしていたのか察した。
「……王印ですね」
いくら優秀な宰相様でも、王印を自由に扱う事は許されてはいない。
(もし使ったら、極刑ものだわ。一族全員、処刑されてもおかしくはない。それくらいの重罪)
王印とは、それくらい重い物なの。
さぞかし、大変だったでしょうね、モリアス様は。屑国王しか王印を持つ事は許されないのだから。
それだけじゃないわ。絶対、屑王族達は書類には目を通さない。理解しないまま、ただサインをし王印を押す。あの屑達は、それすら億劫だとさぼろうしてそう。っていうか、難癖付けてしないわね。
「はい。正式な決定権は屑とはいえ、国王陛下にありますから」
さりげに、屑って言ったわね。段々、ベルケイド王国に染まってきたみたい。それにしても、当時を思い出したのか、宰相様、一気に老けたわね。ちょっと、同情するわ。
「仕事をしない屑国王に、王印を押してもらうのは、さぞかし大変だったでしょう、モリアス様」
(私なら、絶対キレて殴ってたわ。殴って、そのまま王都を出奔したわね)
「ええ、途中まではそうでした。のらりくらりと躱され逃げる屑国王を捕まえ、無理矢理、王印を押させていました。しかし、何故か、途中から楽になりました。頼めば、次の日の朝には押されていましたので、根負けして、少しは仕事をする気になったのかと、その時は思ったのです」
その口調なら、違ったようね。それは、表情からも伺える。とても苦々しい表情だったから。モリアス様の、そんな表情見た事ないわ。
(えっ!? でも、それおかしくない? 王印は国王陛下が持っているのよね?)
国王陛下不在の時は、王妃殿下か第一王子に渡されるけど、それ以外で、国王陛下以外が使ったら罪に問われるわ。まるで、宰相様は国王陛下以外が押したような言い方をしてるけど……まさか、あの屑達が代わって仕事をしたとは思えない。なら、一体誰が?
そこまで考えた時、脳裏にリアス様の顔が過った。
(いや、まさか――)
否定したいけど、否定出来ない。
「…………もしかして、王印を押していたのは、リアス様ですか?」
思いのほか、低い声で尋ねていた。
「そうです。途中から、王印はリアスが押していました」
「何故!?」
間髪入れずに問いただす。
「それが罪だと理解しながらも、そうしなければならなかった。屑達は、私が知らない所で、リアスの友人を殺し脅したのです」
返って来た答えは、悪い方向で、私の想像を遥かに越えてきた。




