第二十五話 新米王女殿下、笑顔で屑を追い詰める
話が一段落した所で、イシリス様がにっこり微笑みながら私を持ち上げ、ソファーに座らせた。
「じゃあ、早速腐らせて来るな。ミネリア、小一時間離れるが、ここでジッとしとくんだぞ」
イシリス様は、私の頭に軽くキスをしてから抱き締める。イシリス様って聖獣様だから、あちこちにキスしてくるのよね。よく、匂いを嗅いだりしてくるし。何か確認している感じ。まぁ、それで安心するならいいし、私自身も安心するからお互い様かな。私も偶にキスを返したりはしてるしね。
「はい。あっ、でも、簡単に腐らせないで下さいね」
ちょっとだけ、注文を付けさせてもらった。
(あんな、舐めた書簡を送ってきた事を、骨の髄まで後悔させてやるわ)
「分かっているよ、ミネリア。特別にじっくりとゆっくりと、腐らせてやる。もう、くっだらない馬鹿な書簡を送ってくる余裕がないようにな」
(イシリス様は有言実行を旨とする方。安心してお任せ出来る。さすが、私の未来の旦那様だわ。大好き。特に、尻尾が)
今も、尻尾が凄い勢いで左右に揺れてるわ。あ〜ほんと、可愛い。
「それがいいですね、イシリス様。これ以上、屑に関わるのは時間の無駄ですし、不快ですから。あっ、でも、屑どもの最後は知りたいですね」
(関わってしまった者としてのケジメだから)
最後は、そう遠くない未来に来ると思う。そろそろ、食料や水の備蓄がなくなる頃だと思うのよね。だから、形振り構わず、あんな馬鹿げた書簡を送って来た。
(思い返しても、ほんと、不愉快でしかない書簡だったわ)
昔から、人の話を全く聞かなくて、自分の都合の良いように解釈する人達だったけど、ここまで、ねじ曲げでくるとは、正直思わなかった。斜め上過ぎるのよ。でもまぁ……今、どういう状況か、判断の材料にはなったけど。
それでも、屑達に恩情を与える気にはならない。それに、それを願う態度でもないしね。切羽詰まっていたとしても、屑達のして来た事を私は絶対許せない。
お父様の娘だからね、憤怒の顔を見せる代わりに、ニヤリと嗤う。私もそこそこのラスボス感は出てると思うわ。
「分かった。最後は特等席で見ようか」
(その提案は、とっても魅力的ね。でも)
「それはいいです、イシリス様。汚い汚物を、わざわざ直接見に行きたくはありません。ただ……手ぶらで行くのは失礼ですよね? 陛下」
最後、お父様に話を振る。直ぐに、お父様は私の意図に気付いてくれた。勿論、ラリーお兄様もイシリス様も。
「そうだな、一応、王都を訪れるわけだし、少量だが生肉と水を恵んでやろう」
(空腹で飢えた屑達に、少量の食料と水。それも生肉って……お父様の怒りと恨みの深さが分かるわ)
お父様は愛情深い方よ。ラリーお兄様も、お母様もね。それが分かっていて、利用するために屑達は私と家族を引き離したの。
小さい頃の私は、あまりイシリス様に近付けなかった。そこを突かれたの。
理由は、イシリス様の聖力が私の身体に深刻な影響を与えてしまうから。簡単に言えば、成長が遅くなるの。つまり、正式に番える時期がかなり遅くなる。今のように共にいられるようになったのは、デビュタント以後よ。それまでは、イシリス様の分身が私の傍にいてくれた。
そうでなければ、護衛のためと称して、私を人質にとれやしない。
イシリス様のお力で、完全に引き離されはしなかったけど、それでも、私が家族の元で暮らせた期間は短かった。
家族を引き離され、搾取され続ける。
そして、最後は――私自身からも搾取しようとした。
その蓄積していた恨みと怒りが、今やっとはらせると、お父様とラリーお兄様は考えている。傍から見たら残酷なと思われるかもしれないけど、それを止めようとは思わない。
自業自得。因果応報。
生肉でも、食料には間違いないわ。この一投は、ピーンと張り詰めた緊張状態を崩せるでしょうね。




