第二十四話 新米王女殿下、屑に底がない事を知る
「まぁ、読んでみろ」
ラスボス級の黒い笑顔を浮かべながら、お父様は王国から来た書簡を机の上で広げた。
「……たぶん、書かれているのは、救助要請でしょ。色々言い訳を並べていそうだけど。でも、それが何なの?」
「その言い訳が愉快なんだろ」
そんな事を兄妹で言いながら、書簡に視線を落とした。読み進むにつれ、全員から表情から消えた。
読み終えた後も、重い沈黙が続く。
(…………はぁ!? 何これ? 気は確かなの?)
「……これ、破ってもいいよね」
「いや、ここまでおかしいと、却って風化防止処理をして飾っておきたいな」
ははと、ラリーお兄様は笑う。だが、その目は全く笑ってはいない。室内の温度が確実に五度は低くなったわ。でも、右半分は暖かい。イシリス様の体温で。助かるけど、室内の温度は更に下がっていく。
「潰す。今すぐ潰す。徹底的に潰す」
(えっ……イシリス様の声よね)
呪詛のようにブツブツと呟き続けるイシリス様の声が聞こえた。私は慌ててイシリス様の腕を掴み引っ張ったわ。
「イシリス様!! それ、聖獣様が言ったら駄目な単語だから!! あ〜完全に闇堕ちした顔になってる!! イシリス様!! 感情にかられて簡単に潰したら面白くないので、少し落ち着いて下さい!!」
必死で引き戻したわ。何とか、イシリス様は正気を取り戻してくれた。
「……ミネリアの言う通りだな。簡単に潰したら面白くない」
(反応したのは、そこなの!?)
「そうですね、簡単に潰したら面白くない」
お父様がのんびりした口調で、イシリス様に賛同する。負けず劣らず、怒気を撒き散らしながら。さっきまでお父様の傍に控えていた宰相様が、いつの間にか部屋の隅に避難しているわ。
(さすが、モリアス様ね。この三人の怒気を浴びて、それで済むなんて)
ここで、ラリーお兄様が口を開いた。
「まさか、我がベルケイド王国を、戦犯及びモリアス元公爵家当主と御息女の誘拐犯として、損害賠償を請求してくるとは。あ〜おかしい、腹が捩れそうだ」
そう可笑しそうにラリーお兄様は言ってるけど、全然笑っていないからね。
(ラリーお兄様要約し過ぎ。ここは、きちんと訂正しないといけないわ)
「違いますよ、ラリーお兄様。正解に言えば、聖獣様の力を我が物とし、王国を混乱に導いた責任として、今すぐ自分達を手厚く保護し、屋敷と地位を与えろ。そして、賠償金も払え。更に、宰相と婚約者を誘拐した事による慰謝料も追加で払え、とぬかしてるのよ。誠意を見せないのなら、この事実を周辺諸国に告げると脅してる。……つまり纏めると、屑は何処までいっても屑。屑に底はないのよ」
(頭がお花畑だと思っていたけど、蛆もわいてるのね)
「奴らの思考回路は全く理解出来ないが、これ、放置でいいだろ?」
お父様の案に、私は異議の声を上げる。
「放置!? 甘過ぎるわ、陛下!! そもそも、屑が公の場で勝手に婚約破棄をしといて、リアス様を自分の婚約者って、自分勝手にも程があるわ!! 下半身節操なしね屑の脳味噌は下半身に付いてるのね!! マジ、潰してやりたいわ、自慢の下半身」
「……ミネリア、気持ちは分かるが、淑女が下半身を連呼するな」
お父様はニヤニヤ笑っているのに、ラリーお兄様が窘めてくる。
「ラリーお兄様は知らないのよ!! 王国の屑達は、皆下半身と股がゆるい奴らばかりなんだから!!」
私はラリーお兄様に詰め寄った。
「股って……」
「胸元と背中が大きく開いたドレスで、私のイシリス様に迫ったのよ!! 娼婦みたいにね!!」
(あ〜今思い出しても腹が立つわ!!)
「それ……」
「何ですか!? ラリーお兄様」
じろりとラリーお兄様を睨み付ける。
「いや、なんでもない。陛下、俺も、ただ放置するのは面白くありません」
「そうだな……ラリアスとミネリアの言う通り甘いな。だったら、これを複写して、最速で周辺諸国に注意喚起しようか。新手の詐欺が現れたと」
相変わらずラスボス感丸出しで、お父様は訂正してきた。
「ああ、それがいいですね」
ラリーお兄様が賛同する。勿論、私もそれには賛成。だけど、納得出来ない。
「安心しろ、ミネリア。下半身を使えなくしてやろう。腐らすのが一番か……さぞかし、痛いだろうな。うん、それがいい。あいつらの子種など害悪しかないだろ。勿論、女の方もな」
私を抱き寄せ、イシリス様はとびっきり良い笑顔で愛を囁くように言う。
ラリーお兄様とお父様、宰相様の顔が引き攣っているのも気付かずに、私は笑顔で「良い案です」と答えた。




